第九話【暗闇】
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「ねー、今日、放課後俺んちで遊ばない?」
「は……?」
「せっかく付き合ってんのにさ、外で遊んだことなかったから」
「…………」
若干迷ったが、いつも弁当もらってるわけだし、このくらい良いだろう。
「いいよ」
「やった」
屈託の無い笑顔を向けられる。
弁当くれるし、先輩思いだし、外見は怖いけどふつうにしてれば絶対悪い奴じゃないと思うんだが……。
そんなことを思ったけど、口には出さなかった。
*
放課後、マフラーを、顔が見えないほどぐるぐる巻きにした八尋と見慣れない道を歩いた。
「寒い」
「そりゃそうだろ」
「手繋ぎたい」
「嫌だ」
「逆らうの?」
「……はぁ」
俺はしぶしぶ右手を差し出した。
どっから見ても、この図はおかしい。
男子高校生二人が普通外で手繋ぐか?
「…………」
そういや、かんばらとは手繋いだこと無かったな。
やることやったのに、こんな初歩的なことをやってないなんて。
「ついた」
切ない気持ちでいっぱいだった思考を、八尋の声が遮断する。
八尋が指差したのは、どこにでもありそうな普通のマンションだった。
「あそこの三階」
「家族は?」
「いるよ」
俺は目を丸くした。
てっきり誰も居ないものだと、勝手に思い込んでいた。
そしてそれを聞いて安心した。
*
「ただいまー」
「おじゃまします」
「……アレ? やっぱ誰もいないみたい」
「…………」
おいおいおいおいおいっ!!!
確かに家の中は真っ暗で、家族がいる気配はない。
二人っきりかよ……なんとなくそうなりそうな気はしてたけど。
「あー。嫌ならかえっていいよ」
「え?」
「なんか無理矢理いさせるのも悪いなって思った。今」
嫌だと思う気持ちが、無意識のうちに表情に出ていたのかもしれない。
そう言う割には寂しそうな顔してるんだけども。非常に断りにくい。
「いや、いいよ。お邪魔します」
「いいの?」
「寒いし」
「よかった」