第一話【禁断】
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突然だが俺、本条 潮には好きな奴がいる!
相手は同じクラスの七尾 昭文という。
童顔でクラスのアイドルのような存在だから、もちろんライバルもたくさんいる。
ここは男子校なので七尾は言うまでも無く男で、しかも自称引っ込み思案の俺はまだ話したことすらない。
好きになったきっかけは覚えていない。
ただ、決して男子校で女がいないからという理由ではなく、純粋に七尾が好きだと思った。
勿論告白したって気持ち悪がられるだけなので、遠くから見つめているだけで十分だ。
――しかし日常は簡単に壊れてしまうものだということを、その時の俺はまだ知らなかった。
*
「潮、ちょっと来て」
夏の終わり頃、とある日の昼休み、親友の啓太に呼ばれて俺は教室を出た。
「何?」
話し掛けても、ちょっと着いてきて欲しいんだけどと言われ、俺は黙って歩いた。
着いた場所はトイレで、きょろきょろと誰もいないのを確認した啓太が俺の顔を真っ直ぐに見つめる。
「どした?」
「潮、あの、俺……彼氏出来ちゃった……」
「!?」
へ?
彼氏?
目を合わせたかと思うと顔を赤くして俯いた。
あまりにも突然の告白に俺は激しく動揺した。わけもわからず息が荒くなり、誰だよと聞くのがやっとだった。
「あの、委員長……どうしよ、嬉し……」
「わーっ! 泣くな泣くな!」
びっくりした。
こんな近くに俺の憧れるゲイカップルが誕生するとは。
しかもそれが親友なので、余計に嬉しくなった。
「おおおおお良かったな!」
「え、潮、引かないの?」
啓太も『そっち側』の人間で良かった……俺の恋愛の悩みも、これからは啓太に相談すれば良いな。
俺は少々迷ったが、啓太にだけは言うことにした。
「……いや、実は俺の好きな奴も男でさ」
「えぇっ! 誰?」
今言って誰かに聞かれてたらどうしよう。
でも啓太もさっききょろきょろしてたし、ここはトイレだしどうせ誰もいないだろう。
「……七尾、なんだけど」
「……七尾っていえば、昭文くん?」
「あぁ」
「うわぁ、またクラスのアイドルなんて面倒な奴を」
「見つめてるだけで良いから、余計なことすんなよ」
「おー。わかった、頑張って!」
お礼を言いながら、啓太は去って行った。
俺は七尾が好きなことを、初めて……しかもアッサリ打ち明けてしまったことに少し後悔していた。
啓太お喋りだからなぁ……大丈夫かな。
いやでも本当にびっくりした。
啓太がまさかあのカタブツ委員長と付き合うことになるなんて思ってもみなかった。
「…………」
付き合うということは……せっせセせせっ…っ…くす、とかもするのだろうか。
あの美形な二人のそういう所を妄想して、ボンと顔が熱くなった。
やめやめ、さっさと出よう。