第一話【禁断】
□2
1ページ/2ページ
「はひ? …………ど……れい?」
「奴隷」
てっきり「焼きそばパン奢れ」とか「ジュース買ってこい」とか、そういうのを予想していた俺は意味を理解出来ずにいた。
「奴隷て、例えば?」
「俺の言うこと何でも聞く」
「…………」
……いやそれ死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ。
本能がそう悟った。
何でもって、「警察ブン殴ってこい」とか「放火しろ」とか「飛び降りろ」なんていう無茶な命令もだよな?
早い話死ねってことだよな?
「む、無理です」
「あっそ」
断ると、さっさと扉を開けてどこかへ行こうとする神原。
駄目だ絶対チクるつもりだ。
俺は、待ってと言って神原の腕を掴む。
「痛てぇよ阿呆!」
「……な、なります! なるから!」
普通に考えれば、犯罪に走ることのほうが絶対に嫌だ。
でも『今』のことを考えると、七尾に俺の気持ちをバラされることのほうが嫌だ。
「俺の奴隷、なる?」
「なります! 神原の奴隷になりますっ」
「ふーん……じゃあ俺に向かって呼び捨ては無ぇだろ。俺のことは『ご主人様』って呼べよ」
「……ご!?」
「ほら、言え」
「……ご……」
――いや、なんか趣旨違うくないか?
しかもめちゃくちゃ屈辱的だった。
同級生の、しかも俺より頭悪い(?)人間に向かってご主人様って。
「………………ごしゅじ、様」
もういい!
犯罪を急かされたら警察でも先生でも、誰かに言えば良いんだから。
「はっ、可愛くねーの」
「なっ!」
ふっと笑って、これまた屈辱的なことを言ってのける神原。
可愛いわけねーだろバカチン!
「あはは、気持ちわりー顔」
いや『気持ち悪い顔』なんかではない。
これは泣きそうな顔なんだよ。
誰が俺をこんな顔にさせているかわかるかな? そう君だよ目の前にいる君だよ。
キッと神原を睨み付けると、神原は余裕の笑みで俺の唇に己の唇を押し当てた。
――――押し当てた?
「っ……!?」
「じゃあ奴隷、よろしく」
ひらひらと手を振り、神原は出ていった。
……今の、キス、か?
あまりに突然のことに、俺はへなへなとその場に崩れるようにして座った。
一瞬触れただけでも、俺にとっては大事な大事なファーストキスだったのに……。