Drive−1

□BABY,D-ショック! 6
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◆同時刻 香坂病院◆


チャイムの音に 綾子がインターフォンを取ると、珍しく男の声がした。

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「久しぶりですね。わざわざ来て頂かなくても、私から伺いますのに。」 

綾子はコーヒーを出しながら その男、高橋総合病院の院長、高橋裕介に声をかけた。


「いやいや、君だけに相談したい事例があってね。もぅウチを辞めた君に いつも申し訳ないんだが、
君以外に頼れる人材はいなくてね。」


「とんでもない。お世話になった上に、あんな迷惑までかけたんです。私でお役に立つのなら
何なりとおっしゃって下さい。」 

 
綾子が 長いウェーブのかかった髪を後ろにやりながら、フンワリと微笑む。

「そう言って貰えると助かるよ。実は、この患者なんだがね・・。」

そう言うと、裕介は分厚いファイルを渡す。厚みだけを見ても、長期入院患者であることは一目瞭然だった。


「27歳女性・・10年前の事故が原因で、植物状態。」

綾子がざっと目を通しながら、声に出して読み上げる。


「それが、昨日から少し・・ココに書いてある様な反応が見られてね。もしよかったら、
こちらに転院させて、見てもらおうかと思うんだが?」 

裕介が、伺う様にして 綾子の顔を覗き込んだ。


「そうですね。そうして頂けたら、私も行き届いた管理ができます。ただ、失礼ですが 
そこまでする患者なんですか?」 

一通りカルテに目を通した綾子が、首をかしげる。


「鋭一の奴が、リカちゃんの為に とにかく手を尽くして欲しい、って言ってる案件でね。
事情は、私も全く知らない。だが、リカちゃんの為にと言われては、私も断れんよ。」


裕介が頭を掻きながら、照れた様に笑う。


「皆さん、揃いも揃って リカには弱いですなー。」


「君もその一人だろ?リカちゃんは 益々お母さんに、美鈴さんに似てきていて 私達も青春が蘇るようで、
年甲斐もなくウキウキするんだ。涼介には・全く・・失望させられたが・・。」 


俯き言い澱む裕介に、綾子は話題を変えた。


「で、その『本物』の赤城美鈴さんは、治療法を変えてからどうでしょう?」

「ぉお、ソレか。かなりいい感じだよ。このまま少しでも快方に向かってくれるといいが・・・。」



二人は軽くため息をつくと、どちらからともなくコーヒーに口をつけた。
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