Drive−1
□BABY,D-ショック! 7
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「私ね、ケンタにトオルを紹介しようって思ってたんだよ。自分の性癖に苦しむトオルの心を
ほぐしてもらいたくって。それにアイツ、攻めだしね☆」
煙を吐きながら、リカはケンタにイタズラっぽく笑いかけた。
「そうだったんですか。じゃ、どうして啓介さんにその話をしなかったんですか?」
「頭ごなしに『怒ってんだ、嫉妬してんだ』って言われて、ま、フツーは女として喜ぶべきかもしれないけど、
啓介はこの先 高橋総合病院を支える柱になるのか、プロのドライバー目指すのかは知らないけど
どっちにしろ沢山の人達の手を借りて、いろんな人達と仕事をしないといけないワケでしょ?車だけじゃなくて、
人としてもっと成長して、感情のコントロールや喋り方を学ぶべきだし、相手の気持ちだって推し量るべきだよ。
涼介だけに頼りっきりで、自分でそれをやろうとしてない、だから少し考えて欲しいと思ってね。」
リカは少し寂しそうに笑うと、立ち上がって伸びをした。
「でも・・もしそれを啓介さんが理解できなくて、仲がこじれたら?」
「その時は、私達の関係もオシマイってことだよ。どっちにしても、私はこの先 啓介とどうにかなる確率は
0%なんだし、だったら私が知らせてあげられるべき事は 全部気付かせてやりたい、嫌われてもね。
嫌われれば、私もラクに別れられるし。」
「リカさん・・・。」
――そんなに啓介さんの事を想っているのに、どうしてそんなに悲しい事を 笑って言えるんですか?
瀬名巳の人間だって言うだけで、定められた人生しか歩いてはいけないんですか?――
「じゃあね、ケンタ。トオルの件、考えといて。アイツの事 助けてやってよ!」
そう言うと、リカは手だけ振って、振り向かずに行ってしまった。
大学の門を出たリカの前に、1台のリムジンが止まると、ドアが開き中から男が降りて来た。
「僕の大事な人が、公共機関で移動するのは心配だな。どうぞ、乗ってください。」
そう言ったのは荻原勇斗だった。
「そりゃ、どーも。」
リカが表情を変える事なく リムジンの中へと身をすべらすと、後から勇斗が乗り込んだ。
『出して』と声をかけると、静かにリムジンが発進する。
その様子を 通りの向かいからマウンテンバイクに乗った啓介が、食い入るように見ていた。
「リカ・・・。」
――さっきの男は確か・・荻原勇斗。この間の提携パーティで見た、次期社長の御曹司。
リムジンが去った後に、ケンタのS14が出てきた。
「啓介さん!丁度よかった、乗ってください。チャリも乗せますから。」
「修理が終わってないとはいえ、チャリだもんなぁ〜。」
「何、ブツブツ言ってんですか。早く。」
ケンタは迷いに迷った挙句、リカの話の全てを啓介に伝えた。啓介はショックというより
自分の狭さに愕然とし、声も出なかった。