Drive−1
□BABY,D-ショック! 9
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この息苦しい空気を最初に破ったのは、リカの方だった。
「私は・・そこまでしてもらう価値なんて、ないよ。だって、私は来年・・――」
「結婚するって言うんだろ?」
啓介が、吐き捨てるように言い放つ。
「何でソノ事を?」
「藤原から聞いたんだよ。奴は、オヤジさんから聞いたって言ってたけどな。」
「そう。多分 近いうちに経済誌とかに載るかもしれないから、すぐにバレただろーけどね。」
「そんな事は関係ない。俺は、絶対にリカを離さないって言ったハズだ。」
「でも、こればっかりは・・・」
リカが自嘲気味に笑う横で、啓介の真摯な声が頼もしく響く。
「覚悟しとけ、とも言ったハズだぞ。」
啓介の顔が近付いて来る。私は、まだ夢の続きを見ていてもいいんだろうか・・・?
もう少しだけ・・この暖かい温もりに触れていていいだろうか?
唇が触れそうになったその時、部屋のドアが乱暴に開いた。
「メシだ!離れんかっ!ケダモノ!!」
綾子がもの凄い形相で、啓介シッシッと追いやると、啓介に背を向ける形で椅子に座り リカを見た。
「さぁリカ、答えてもらうぞ。自分でおかしいと思う部位や、違和感があるところはないか?」
綾子に言われ、リカは電動ベットの背もたれを起こしながら、あちこち体を動かした。
「どうだ?」
「うーん、別に何もないなぁ。手足に力が入らないのは、寝てたからでしょ?今日はあれから何日経っているの?」
「今日は月曜、あの日から三日目の昼だ。まぁいいだろう。最後に、何故あの岬で落ちる前に逃げ出さなかった?」
「逃げ出さなかった、じゃなくって逃げれなかったんだよ。もう息を吐く振動ですら 即、落下っていう
状態だったんだから。」
「え?」
綾子が驚き、啓介も食べる手を休めて リカを見た。
「あの日・・岬の先端部分1メートル四方は 岩盤がモロくなっていて、100%デッドゾーンだった。
恭子は多分、頭の中で10、もしくは15メートル手前で 止めようと思っていたんじゃないかな?ところが、
あの日のコンディションは、彼女が思っていた以上に悪かった。特に、突然来る横からの突風がね。
恭子は、窓も閉め切っていたし 風が来た時はもう・・まともに流されていて、ステアリングごと
持っていかれていた。ソレを止めるには、コッチが体当たりかまして その反動で、逆方向へ流してやるしか
方法がなかったし・・コッチは先端に流れるの、分ってたけど、正直、対処する事しか頭になくって。
で、車を止めた時に『ガクン』って微妙に下がる感じがしたから、これは少しでも動けば終わるなって思って。」
「そうか。しかし、二度とこんな事はゴメンだぞ。お前と一緒に、この高橋兄弟まで飛び込んでくれて、
医者としては 迷惑な話だ。」
「え?二人が?でも涼介は?まさか・・?!」
元々青白かったリカの顔が、ますます青くなってゆく。