Final-Drive
□BDショック! Final Romance 2
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「この山は、ワルト山って言うんだけど‥拓海、この峠のコースはホッケンハイムのレースのコースに似てるんだよ。」
言ってからリカは、煙草に火を点け紫煙吐き出しながら拓海にチラと視線寄せた。
ソレを受け拓海は、エッと小さく叫んでから、信じられないという風に、この美しい風景を
360度グルリと見渡した。
「あのコースは‥本当は‥コンクリート壁とアスファルト路面だけの、あんな殺風景な造りじゃなかった。
あんな風になったのは2ヶ月前。それも、あの翔が、突然あのコースを買い取ってやらかしたのよ!」
「何ですって?!あのイヤミ男が?どーして?一体、何の為に?!」
恵が信じられないとばかりに目を丸くし、声を上げる。
「あの今のコースの別名は『処刑台ロード』。コンクリート壁に囲まれたコースには、
ある心理的トラップが仕掛けられていて、1度そのトラップにハマると、不安・焦りから疑心暗鬼に陥り
走る事に対し絶望的になる事もあって‥――」
言いながらリカは短くなった煙草を、携帯用灰皿に揉み消すとゆっくりと息を吐いた。
「翔は‥妾腹の子供なんだけど、彼の父親‥GMWの現会長は、翔の母親をとても愛していたそうよ。
ソレは一族の中だけでなく、会社の社員の中でも有名な話で、翔の母親に別宅を与え、ほとんど毎日のように
通い詰めするほど。しかし、一族からすれば面白くない訳で、やがて翔が13歳の時に母親が亡くなり、
本妻に子供がいなかった会長は、迷わず翔を引き取ったが、会長の目が届かぬところで、それは‥ありとあらゆる
嫌がらせを受けた。ソレを何とかかいくぐって行く内に、誰も信用しない悲しい人間になってしまった上、
アイツは‥自分が受けた事を捻じ曲がった形で、色んな部分に報復として返し、ソレを自身の悦びにする。
そしてその報復を受け、墜ちてゆく人間を、上から見下ろすことを生き甲斐にしてる。」
「な‥何でまた、そんなに歪んでるんっスか?!」
思わず身体をブルリと震わせながら、ケンタが尋ねた。
「それでしか‥自分の不安を、紛らせられないから。」
「不安って?」
拓海が眉根を寄せ、リカを見た。
「今の自分の地位を、いつか誰かに取られるのではないか?自分の腹心が、実は裏で裏切ってるんじゃないか?とか‥
あの色男も面の皮1枚剥げば、妄想に取り憑かれた臆病者なのよ。だから皆の顔から希望を消して
自分だけが笑っていないと、安心出来ないわけ。」
「かなり荒んでる人なんスね。でも‥そんな人のせいで、啓介さんは‥――」
言いかけたケンタがハッと口を噤んだが、リカは表情を変える事無く、新しい煙草に火を点けていた。
「みんなも、コンクリートに囲まれ続けて疲れてるでしょうけど、トラップを見切ったら、もう怖い物はない。
拓海もしっかりこの自然の風景のイメージ叩き込んで、コンクリ壁なんて取っ払っちゃいなさい!さ、走って!」
そう言われた拓海は、嬉々としながら愛車に乗り込むと威勢良く飛び出した。
結局その日は、のんびりと‥と言いながらも、久し振りの晴天と自然に囲まれた開放感から、日没まで走り続けた。
ホテルに着く頃には、ケンタが張り切って明日の準備をしていた。
「明日はランチ持って、ガスたくさん準備して、ワンボックスもう1台手配っスね!」