薄桜鬼小説

□【男たちの下世話な話】
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「左之さんたち最近朝帰りしなくなったよなー。」

「あ?なんだよ突然。」


稽古場の奥、壁に背をつけて床に胡坐を掻いて座り込む。
平助や新八とも何度か打ち合って、丁度いいくらいに汗を流して、

そうして、今は平隊士の指導をしている源さんたちの背中をなんとなく眺めている。

「だーってさぁ、左之さんは酒が目当てかもしんないけど、それでもなんだかんだ朝まで飲み明かしてたじゃん。それが最近はないよなーって。」


平助が額の汗を布で拭きながら俺の隣に腰を下ろす。
つか、さっきまで別んとこで稽古してて、俺を見つけてここまで来て開口一番それかよ。


「なんだ、平助。俺たちが、しょっちゅう朝まで酒かっ食らってるみたいな言い方すんじゃねーよ。」

新八も平助に続いて稽古の手を休め俺の横にどかりと座り込む。

「別にー、そんな意味で言ったんじゃないよ。たださー、なんでかなーって。」

「あー、まぁ、確かに、最近はあんまり行ってねぇなぁ。」

「飲むにしたって晩飯ん時、ちびちびやる程度だからな。」


言われて見れば、一時期頻繁に行っていた島原にとんと出かけてねぇな。
だが、これといって深い意味はねぇわけだし、行きたくなったらまたふらっと行くと思うけどよ。



「あ、」


「なんだよ新八っつぁん、間抜けな声だして」

「平助、間抜けは余計だ。って、そうじゃねぇ、なんとなく思い当たった。」

「あ?なんか理由あったのかよ。」


俺の方にはめっきり思い当たる理由はなかったが、どうやら新八は何か思い出すかのように何度か頷いた。



「なんかよー、最近、飽きてきたっていうの?」

「飽きた?何に?」

平助がずいずいと身を乗り出してくるから、間にいる俺が狭いじゃねぇか。
勢いで迫ってくる体を押しのけると平助は俺の向かい側に回りこむ。
なんとなく、3人で輪になって話し込んでいるかのような状況だな、こりゃ。


「ああいうところのいる女って着飾って確かに綺麗だけどよ。
 なんつーか、男に媚びてるっていうのかねー、妙に軽いんだよな。」

「あー、それ分かる!香ばっか焚いてるから変な匂いするしな!」


「変な匂いって、平助そりゃねぇだろ。あいつらだって仕事なわけだしよ。」


俺の言い返した台詞に文句があるのか、平助は眉をひそめた。


「左之さんはとりあえず旨い酒が飲めれば満足なんだろー、黙っててよ!
俺としてはやっぱりさー、旨い酒も大事だけど酌してくれる子が可愛いかって大事だと思うんだ!!」

「お、平助。分かってんじゃねーか。」


平助の発言に気を良くした新八も興奮したように島原の女は美人だが男を見下してるだの慣れすぎててつまんねぇだの文句を並べ始める。
俺としては、んなことに文句つけんなら大人しく屯所で自分の酌で飲んでりゃいいと思うんだが、


「だったら新八、千鶴みたいな素朴な生娘に酌して貰えりゃ満足なのか?」


「あぁ、千鶴ちゃんが酌してくれんなら酒も旨いだろー・・・え?」

「左之さん、なんで千鶴が生娘なんて知ってんだよ!?」


目を丸くした新八と、一瞬反応を返すのが遅れてしまったと焦ったように俺を問い詰める平助を見比べてから俺は思ったままを口にする。


「なんでって、わかんだろ、普通に。男に慣れてねぇし、まだそんな年でもねぇだろうし。」

「で、でも、え、だってさー・・」


もごもごと言いよどむ平助に変わって新八が俺に食って掛かる。
そんなに2人を煽るようなこと言ったっけなー・・。


「つか左之!千鶴ちゃんが生娘だとかそうじゃないとか、そういう風にあの子を見てたのかよ!」

「は?別に見てねぇよ。ただ、そういう風にもなにもあいつは生娘以外考えられねぇだろ。」


「な、なんで・・」


顔面といわず首まで真っ赤にしている平助に対して、俺はわざとらしくため息を漏らす。


「江戸の実家ではずっと親父さんと一緒だったんだろうし、ここに来てからあいつに男が出来た素振りはねぇだろ。第一ずっと男装してんだから俺たち幹部の誰かが手をださねぇ限り生娘だろってことだ。」


「俺たち幹部が・・・、」
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