薄桜鬼小説
□【モーニングコール】
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【モーニングコール前日】
「おぅ、ちょっといいか?」
「え、あ、はい。」
両手いっぱいの繕い物を抱えて廊下を急ぎ足で歩いていれば手に持った荷物で視界が遮られる中届いた聞きなれた声。
「あー・・・とりあえず、それ置いてから俺の部屋まで来い。」
「分かりました。」
彼はそう告げるとさっさと歩いていってしまって、私はというと当初の目的通り自室へと急いだ。
「土方さん、」
「おぅ、入れ。」
扉の向こうで名を呼べばすぐさま返事が来る。
襖をすっと引いて中に入れば、彼は書状を広げ眉間に皺を寄せていた。
何か、重要な話、だったらどうしよう・・。
知らぬうちに緊張で表情を固めてしまっていたらしい。
彼は困ったように眉を下げて、それから自分の額に張り付いた眉間の皺を取り去って、苦笑した。
「お前に小言言うために呼んだわけじゃねぇ。んな顔すんな。」
「あ、はい。」
座れ、と言われて彼の向かいにおずおずと腰を下ろした。
「お前に聞きたいことがある。」
「はい。」
「永倉、原田、平助が毎晩どこに出かけてるのか、お前なら知ってるだろう?」
「え・・・?」
真剣に、問われて私は思わず間抜けな声を出してしまった。
私の反応は予想していたのだろう、土方さんは額に手を当ててため息を吐いた。
「わざわざお前に聞かなくても大体予想はついてるんだがな。
ただ、あいつら朝帰りだの平気ですっから昼の巡察に支障がでてやがんだ。」
「それは・・・、」
確かに、そうかもしれない。
毎晩、あんなところに行ってお酒飲んで朝帰りを繰り返していたら朝起きれなかったり、寝不足での巡察になることは非を見るより明らかだと思う。
と、少なからず私は顔に考えていたことを出してしまっていたらしい。
土方さんは多少、眉間の皺を濃くしながらそれでもふーと、重たい息を吐き出すだけにとどめた。
「で、とりあえず確実な情報として、お前の口から聞きてぇんだ。」
「・・はい。」
言って・・いいのだろうか。
実は、原田さんたちは行く前に大抵私に声をかけてくれる。
永倉さんは原田さんが私に声をかけることを嫌がっていたけれど(島原に行く、なんて女の子に伝えるのは抵抗があるらしい)
やはり幹部が3人抜けてしまうわけだし、何かあったときに自分たちがどこへ出かけたかを伝えておくのがいい、と言って納得させていた。
ただ、屯所に何かあったとき以外は秘密にして欲しい、とも言われている。
頭の中でいろいろと葛藤していたが、土方さんのまっすぐな視線で我に帰る。
「大方、あいつらから口止めされてんだろーがよ、黙ってるっつーのはお前のためにも、あいつらのためにもなんねーぞ。」
目を細めて土方さんは厳しげな口調を作って言う。
私は、心の中で3人に謝りながらゆっくりと口を開いた。
「原田さんたちは、その、島原に・・でかけています。」
「・・・やっぱりか、あいつら・・。」
「あの、でも、それは・・」
「わかってる。ここ最近、浪人たちとの斬り合いも頻繁だし、京の治安も悪い。いろいろ精神的に溜まってるっつーのも理解してる。ただな、隊務に支障をきたすっつーのは、見逃すわけにいかねぇだろうが。」
「・・・はい。」
「っち、」
土方さんは盛大に舌打ちをして、それから乱雑に立ち上がって襖を開いた。
「あの!」
「あ?」
しかし、彼が部屋から出て行くことはなかった。
私が、少しばかり慌てて声をかけたものだから怪訝な顔をしながらも彼は足を止め、ゆっくりと振り返ってくれた。
だから、鋭い眼光にめげそうになりながらも先ほどから考えていたことを恐る恐る提案する。
「原田さんたちが毎晩、その・・島原に出かけているのを見送っていた私にも責任はあります!」
「責任?あいつら幹部の行動をお前が制限できるわけねーだろうが。お前はんなこと気にすんな。」
「いえ・・、あの、ですから・・私が、原田さんたちを起こす、というのはだめですか?」
「は?」
このまま土方さんに任せてしまえば、予想通り原田さんたちはお説教を受けて、しばらくは外出も間々ならなくなってしまうかもしれない。
確かに、島原に通っている姿を見送るのは心が痛いけれど、彼らなりに気晴らしなら私に止める権利はない。
間接的に、私も外出禁止令に一役買ってしまったとなったら申し訳なさすぎて顔を合わせられない。
それならば、せめて・・、
「昼の巡察の時にしっかりと遅刻せず送り出せば、隊務に支障は出ないんじゃないでしょうか。」
「お前が毎朝、あいつらを起こして回るっつーのか。」
「はい。もともと朝餉のとき、声をかけて回っていますから。」
土方さんは眉間に皺を寄せて少し考えるそぶりを見せる。
この提案が通れば、少なくとも隊務に支障は出ない、と思う。
私なんかが提案していい立場にないことは分かっているけれど、夜の巡察で血まみれで帰ってきたときの彼らの表情とか、雰囲気がどうしても切なくて、
少しでも心の中が晴れるなら、私は手助けをしてあげていって思うから。
「いいじゃないですか。彼女にまかせちゃえば。」
「総司!?お前なんだってここに、」
顎に手をかけて思案顔を作っていた土方さんは聞きなれた声に思い切り顔を上げた。
「近藤さんにお土産をって思って探していただけですよ。で、左之さんたちを起こして回るんなら僕のところにも来て欲しいな。」
襖に手をかけてこちらを見下ろす沖田さんはまぶしいくらいの笑顔を貼り付けていた。
「総司、お前勝手なことぬかしてんじゃねーよ。」
「えー、だって、それが一番の方法だと思いますよ。
土方さんだって言ってたでしょ。隊士たちの精神的な問題も理解してるって。
なら、無理に押さえつけるよりも彼女の言う方法でしばらく様子を見るのもありだと思いますけど。」
沖田さんはズカズカと室内に入ってきて私の横、すれすれに腰を下ろす。
「僕も、最近は寒くなってきて朝起きるのが辛いところだし、千鶴ちゃんに起こしに来て欲しいな。」
「え・・、」