歌のプリンス

□本当の好き
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時々、マサトの困った顔が見たくなる。



別に酷い事がしたい訳では無いが、困っているマサトの顔は滅多に見れないので見たい。




ただ、それだけだったのに。



マサトを泣かせてしまった。






事の始まりは2週間前。



「イッチー」



「何ですか?今、何時かお分かりですか?」



「オレは時間なんかに縛られない男だからね」



「私は縛られているので帰って下さい」


トキヤは半分しか開いていないドアを閉めようとドアノブに力を入れる。



「あー!待って、待って、五分だけだから」



時計の針は2時を指している。
午後の2時ではなく、真夜中の2時だ。



「30秒で済ませてください」


「短すぎるよ、イッチー」



二人は廊下で話していたら他の生徒の迷惑になるので中庭のベンチに向かった。



腰を下ろした二人はしばらくの間目の前に広がる湖を見ていた。



「...何ですか...この沈黙は、私、帰ります」



「あー!待ってよ!ちょっと考えてたんだ、どうやってイッチーを説得するか」



「...あなたはどうして、こう、いつも悪い事ばかり考えているのですか?」



「わ、悪い事じゃないよ。お茶目な事だよ」



「...本当に帰らせてください」



トキヤは立ち上がろうとする。



「ごめん!ごめんって!真面目に説明するよ」



パシッとトキヤの手首を掴み帰らせないようにする。




「はあー、何ですか?」



仕方なくと言った感じでもう一度腰を下ろした。




「実は...マサトの困った顔が見たくて」



「私はもう、呆れて何も言えないですよ、レン」



「あー!まず、最後まで聞いてくれよ」




「...」



「それで、オレが思いついたのが記憶喪失なんだけど、どうかな?」



「まるで、プレゼントの相談をされている気分ですよ」



「おー!それはいいね」



「皮肉を言っているんです」



トキヤは冷ややかな視線をレンに向ける。


「どうして聖川さんの困った顔がみたいのですか?」



「可愛いから」




「...私を巻き込まないでください」



「皆の協力が必要だから、皆を巻き込むよ、イッチーだけじゃないから安心して」



「...そういう意味ではないです」




「それで?手伝ってくれないかい?」


「...はあー、分かりました。一度だけですよ」
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