*Novel*
□月明かりに照らされて
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ねぇ、もっと近寄って.
仕事帰り。
いつもの最強チームでのお泊まり。
前も立ち寄ったことがある鳳仙花村。
エルザはもう眠ってしまって、部屋は静まり返っている。
あたしは何故か、眠れなくて。
「ナツ達も寝たかなぁ…」
隣のナツ達の部屋からは、物音一つ聞こえない。
時刻は真夜中、皆当然寝ているだろう。
目が冴えていて、どうしても眠れない
「ちょっと散歩してこよ…」
カラカラと下駄の音が静かな夜に響いていた。
今の季節は秋。夜中は流石に肌寒い。
それでも外の空気が気持ちよくて、旅館の周りを一周して、庭の縁側に腰掛けた。
…今日は月が綺麗だ。
「「ハァ…」」
……あれ?
「「誰(だ)?」」
また、ハモッた。
「…その声、ルーシィか?」
「え、と、グレイ!?」
同じ縁側に腰掛けていたのだろうか、暗くてよく見えなかった。
「なにしてんだ?こんな所で」
「眠れないから、ちょっと散歩。そう言うグレイはなにしてんのよ」
「俺も、眠れないんだ。それに、月が綺麗だなぁって」
「ふふっ、意外にロマンチックなのね♪」
「違ーよ。でも、分厚い雲が邪魔して中々月が見えねぇ」
「ふーん。じゃあ、あたしもお月見に付き合ってあげるっ」
「月が見えねぇんだから、お月見って言わないだろ。つか、その格好寒くねーか?」
「へーきよ。月もその内、出てくるわよ」
「…風邪ひくなよ?ほら。」
そう言ってグレイは、自分の上着を貸してくれた。
「…ありがと。グレイは?」
「俺は寒くなんかねー。さっさと着ろよ」
「うん、」
月明かりもなくて、グレイの顔は見えないけど、自分を気遣ってくれたコトが嬉しい。
「…あ、出てきたぞ」
「わ、ぁ…」
雲がやっと切れて出てきたのは、綺麗な綺麗なお月様。
「綺麗、だな」
「うん」
何よりも、この綺麗な月をグレイと二人で見れたコトが幸せ。
「…そろそろ戻るか?」
「まだ、いる」
「風邪ひいても知らねぇぞ」
「グレイが上着貸してくれたもん」
「…ったく」
「あったかい、よ?」
「そりゃ良かったな」
それに、グレイの匂いがして、落ち着く。
「ねぇ、もっと近寄って」
「は?何で?」
雲がまた月を隠して、真っ暗になる。
「…手が、冷たい」
「俺のが冷たいと思うぞ?」
「いいの。もっとこっち来て」
「はいはい」
見えなくても、グレイが近寄って来るのが分かった。
「…で、どうしろと。」
「っ///こう、するの」
そう言って自分の手をグレイの手に重ねた。
多分、グレイはびっくりした顔になってるんだろうな。
「…ルーシィ」
「……あったかい?」
「ーっ///おうっ!!」
その時、一瞬だったけど、雲の切れ間から月が顔を出して、あたし達は月明かりに照らされた。
月明かりに照らされたグレイの、照れた様にはにかんだ笑顔に、あたしはドキッとした。
できれば、ずっと、このままで…