氷帝学園R組!

□act.01
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桜が散り、春を告げる囁きが耳にはいる。
この季節が大好きだった。けど今は憎たらしくてしょうがない。
私――麻浜千晴(Asahama Chiharu)は、今年、氷帝学園に入学することになった。
氷帝学園、そこは多くのお嬢様やお坊っちゃまが集う、まぁ簡単に言えばお金持ちの学校である。
私の家は金持ちってわけではない。どちらかと言えば金持ちであるが普通の家庭よりすこしある程度なので、本当はこの学校に通う事はなかっただろう。
だが、生憎、私の両親は恐ろしい程の親バカであり、一人娘である私にお金を使い果たし、この学校へと通う事になった。

R組というクラス養護学級で。

正直、何故そこのクラスメートになったのはよく分からない。
私は体調が悪い訳では無い、寧ろ良好だ。おかしいと言えば髪型だけである。
母親の謎のセンスにより、右横髪が三つ編み、左横髪が巫女が付けているような結び方をしている。
ちなみに私は何度も遠慮したが、あのバカ母は止めることなく、しかもさらに新しい髪型にしようとしてきたので、これでいいからこれ以上いじるな、と言っておいた。
……て言うか、これ私がおかしいんじゃなくて私の母がおかしいんじゃね? と言う疑問が沸くが、生憎、私の母はただのセンスの悪い親バカなだけですので安心してください。はい。

私は平凡兼平和に三年間暮らしたかった。
だがR組に入ったらそんなものできる訳がない。養護生徒が集うそこは、三年間ずっと同じ仲間とやっていかねばならないし、母親の話に聞くと、一捻りある個性的な子が、一年で5人以上来るのは珍しい、との事。
クラスも他と違うので、養護生徒は特に目立つ。そして一捻りある個性的な生徒ときたら、私はもう勢いよく逃げたいのだが、それも不可能なのだ。

そんなことを考えながら、私は気を重くしながら、入学式へと出たのであった。







入学式が終わり、とりあえず新入生代表の跡部景吾君には絶対に関わらないでおこうと誓いながら、廊下を歩く。
色んな人からの視線を浴びているが仕方ない。こんな髪型をしているのだから。
そして、他のクラスよりも無駄に広いクラスのドアの前に立った。


(行きたくない)


思いが高まり 、顔を歪める。
だが行かなければならない、将来の為にもなるし、三年間我慢すればいいだけの話。
三年間後の受験で違う学校に行けばいいだけの話。
そう覚悟を決めて、私は静かにドアを開けた。




教室の中に入ると、そこには九つの机が三列づつ置いてあり、黒板に席割りが書いてある紙が張ってあった。
既に生徒は座っており、空いている席は2つ。多分私と他の子だ。
私は静まり返った気まずい教室の中をスタスタと歩き、紙を覗く。どうやら私は真ん中の一番前らしい。
そのまま書いてある通りに私は席に座った。左隣の子はまだ来ていないらしく、空席状況だ。

気まずい。
会話どころか音すら聞こえない。聞こえる、と言ったら廊下で騒いでいる人達の声だけ。
この気まずい空気に耐えられなくなり、隣の子に助けを求めようとしたが、生憎隣の女の子は本を読んでいる。


……ちょっと待とうか。


あれ、え? 何で? 何で男子の席に女子が座ってるの?
オレンジ色のウェーブのかかったロングヘアーの女の子は、当たり前かのようにそこに座っている。


……て言うか、よく見てみればおかしい光景が多い。


廊下側の前から二つ目の子、彼も女の子に見える。
だがそれはまだいい、問題は一番後ろの席だ。

何故か――人形が座っている。

あれ、みんな突っ込まないの? 突っ込むでしょアレ。
しかも人形の首からなんか「きもっぺ」って書いてある札あるし。どんだけ可哀想な名前だよ。

そして窓側の列の一番後ろの子。
あれ、あの子、あの新入生代表の跡部景吾君じゃないのあれ!?
何かさっきと雰囲気違うけどそっくりだよ、絶対そうだよ!
ああああああ、関わらないと思ってた矢先にこれだよ! どうしよう私の三年間平凡ライフ!

こんな感じで一人で絶望していた、その時――。
勢いよくドアが開いた。


「……?」


皆驚いてドアの方を向くと――そこにはいかにも普通っぽい青少年がいた。


「あ、えーっと……」


見られていたのに気が付いて、もう一か八か、と言わんばかりの表情になって、彼はこう言った。




「おっ、おはようございましゅっ!!」




噛んだ。


……噛んだ。


青少年は顔を真っ赤にして、混乱状態になる。そんな彼を見て、プッ、と小さな笑い声が聞こえた。
そして、その笑い声は次第に大きくなる。
その笑い声の主は――いかにも不良っぽい人。
だが、彼は青少年に向かって、笑って言った。


「おはよう! 噛み男」


そして、彼を始めに、挨拶が聞こえるようになってくる。
静まり返った空気は、あっという間に消えていった。


(何とかなりそうだな)


そんな光景を見て、私は一人そう思った。
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