氷帝学園R組!

□act.01
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さっきより教室の雰囲気が柔らかくなり、誰かに話しかけよう、と思った瞬間、ドアがまた開いた。
生徒は全員揃ったのに、クラス間違えたのか? と思ったが、それはそのドアから出てきた人物を見た瞬間、打ち消された。

2m弱ぐらいの大きさの人間が、体を小さくかがんで、そしてスタスタっ入っていく。
先生らしきその人は、身長は驚くほど大きいのに、顔はどこか幼さが混じっていて、子供のように前髪を球体のゴムで縛り付けている。
そして、裾の長い白衣、ブカブカのジーンズ、スリッパと言う謎の三点セット。
こんな髪型をしている私でも、あれはないだろ……、と思ってしまった。
まぁ、髪型は母親の趣味だが。



「おーい、お前等ー、席付けー」


先生、皆席ついています。
そんな突っ込みを内心思い、私は真っ直ぐと先生の方へと向いた。


「はい初めまして、R組諸君。今日から三年間このクラスの担任兼全科目の教師になりました、榎本晃一(Enomoto Kouichi)でーす。宜しくー」


こんなにダラダラな自己紹介は初めてだ。
その前に、こんな先生が全科目の教師って……。
そんな他人の心配をしながら、彼の姿を見る。


「えーっと……。今から皆の自己紹介してもらうわ。んじゃ、後は宜しくー」


「はい、窓際の前の奴から」と、投げやりで言い、榎本先生は眠そうに欠伸をする。
適当過ぎるだろ……、と内心呆れながら、窓側の席の子の自己紹介を聞きながら、自分の自己紹介の内容を考えることにした。



「あ、えと、初めまして! 高下猶堵(Takashita Naoto)と言います! 三年間、宜しくお願いしますっ」


ガバッと背を90°に曲げ、綺麗な礼を見せる。優しそうだしに、とならやっていけそうだ。
見た目的には普通な子だ。茶色かかった黒い髪は首まで伸びており、サラサラヘアー。まぁ、顔は爽やかイケメン、と言うのが証に合うのだが、なぜこんな子がR組に入ったのかが分からない。
もしかしたら、私みたいに、母が物凄く親馬鹿? と思ったが、考えるのをやめておいた。


「あー、俺は成瀬慎也(Naruse Shinya)だ、めんどくせぇ奴は受け付けねぇ、宜しくな」


高下君が挨拶を終えた次は、彼とはまるで正反対の、目付きの悪い男だった。
紫色に近い色の目で人を殺せそうな程のそれは、こちらをみるたびに肩を跳ねる。
首までのボサボサな黒髪に、赤いメッシュが入っていて、いかにも不良らしさをただよさせる。
だが、そこまで悪い人ではない、ということは、先程の事を見て既に分かっていたので、彼とも仲良くなっていこうと思った。


「跡部景司(Atobe Keiji)です。今日の入学式で出たのは兄の方なので、以後、お見知りおきを。宜しくお願い致します」


丁寧に挨拶してきたのは、私があの新入生代表の跡部景吾君と間違えた子だった。
よく見ると、髪も彼よりも長いし、どこか弱々しくて、彼とは大違いだ。
そして、凍るほど冷たいアイスブルーの目は、成瀬君とは違う謎の雰囲気をただよさせる。
双子だと思うが、こっちのほうが兄でよくね? とか思ったが、考える事をやめた。なんか関わりたくない。得に兄。


「初めまして、麻浜千晴です。宜しくお願いします」


ザ・普通とも言える程のこの自己紹介。
そもそもそんなにこのクラスと関わる気ははないので、これくらいでいいだろう。
皆は得に気にすることなく、次の子に進んでいった。


「……狩町朱里(Karimachi Akari)、宜しくしないで」


そう言って顔を伏せる後ろの席の子。
顔が一瞬見えたが、その顔は明らかに私達を敵視しているような鋭い目付きだった。
だが、その目付きを見て、私は何故か怯えなかった。
青色混じった黒髪のポニーテールは驚くほどサラサラで、顔立ちもかわいい。睨むことをやめればまるでお人形さんみたいだ。
だから多分怖くなかったのだろう、と適当に自己解釈をし、次に進んだので、聞くことに集中する。


「おっはよー! ウチ、黒岩幸(Kuroiwa Sachi)って言いまっす! 隣のこの古臭い人形はストレス解消人形なんで、是非是非殴ってください!」
「は!? なんでおいらがおめー等のストレス解しょ」
「はい、どーん」


そう言うと、黒岩さんは人形を思いっ切り投げ、何事もなかったかのように座った。
腰までの金髪のロングヘアで、左目はちょうど前髪で隠れていて、見透かすような琥珀色の目。
最初の印象はミステリアスでしゃべらない子だと思っていたが――そんなもの、一瞬でブチ壊された。
それどころじゃない、何で人形が喋ってるの!?
何で皆驚かないの!?
人形が印象深すぎて、黒岩さんの事なんてその後考えるの暇もなかった。


「はーい! アタシ、香澄誇里(Kasumi Kozato)って言いまーすっ! 香澄ちゃんって呼んでね! ウフッ」


……突っ込みどころが多いがスルーしておく。
女だと思っていた香澄さ……、香澄ちゃんは、声は男だった。
正確に言えば、オカマだった。
オレンジ色のウェーブのかかった髪にぱっちり二重の赤朽葉の目は男とは思わせないこの可愛さは、多分、ネットで噂の「男の娘」と言うものであろうか。


「……俺、球磨園玲(Kumazono Rei)、身体弱いので……、良く休みます……」


弱々しく、そして小さな声だったので、聞き取るのが精一杯だった。
ボサボサだが、ふわり、と長いその黒髪、そして光のない黒色の瞳を見て、どこか思い当たる節があったが、気のせいだろう、と自己完結をした。


「よーし、全員言ったな。じゃ、このメンバーで三年間やってくんで、宜しく」


ふわぁ、と欠伸をする榎本先生を見て、本当にやっていけるのを心配したのは、言うまでもない。
そして、R組の初対目は、これにて幕を閉じるのであった。




act.01/end
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