月夜のwizard vampire
□1.月夜
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取り柄なんて、わからない。
才能なんて、どこにもない。
俺はただただ、会社の駒として働くだけ。
ただ、それでも生きてるだけいいってそう思ってた。
無味無臭なつまらぬ人生。
そんな人生送りつづけて、なにがいいんだろう……
智「……はあ。」
俺は、電車の吊り革に掴まったままため息をついた。
俺、大野智。普通に生活して、普通に働く普通のサラリーマン。
……いや、普通のサラリーマンだったフリーターだ。
今日限りで、俺は会社をリストラされた。俺はもう会社に必要とされなくなったのだろう。
会社も恋人もすべて全部、俺はこの手から失った。
残されたものは、そう……絶望だけ。
希望なんてありゃしない。俺は、世間から見捨てられた腐った駒だ。
いくら見た目が良くても、中身がこうじゃ……ね。
智「……」
ふと、俺は幼い頃に読んだお伽話を思い出した。
満月の夜に、海に一隻の輝く船が停泊していて、それに乗ると幸せの国で幸せに暮らせる、というお伽話。
馬鹿馬鹿しいお伽話だけど……それが本当ならばどんなにいいだろう。
智「……」
気がつくと、俺は海の近くの駅で電車を降りていた。