悪ノ王子〜哀しく輝く青ノ薔薇〜
□〜第三章〜
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〜潤SIDE〜
−海ノ国、小さな村−
村1「とにかく、もう我慢ならん!」
村人のひとりが、集会場の木の机を思い切り叩いた。
村1「いつになったらこの村は潤うんだ……これじゃまるで、悪ノ王子のために働いてる奴隷みたいじゃないか!」
俺は、黙ってその力説する村人を見ていた。後ろに、子供たちを匿いながら。
子1「潤にいちゃん……」
子2「こわいよう……」
子3「おとうさんがちがう人みたい……いつも優しいおとうさんなのに……」
潤「大丈夫。お父さんはちょっといらいらしてるだけだから。いつもの優しいところをなくしたわけじゃないよ。……ちょっとあっちにいっておいで。兄ちゃん、ここにいなくちゃいけないから。」
子供たちは、素直にうなづくと村のシスターに連れられて別室に移動した。
俺は、子供たちを見送ってから親父のもとへ歩み寄った。
潤「親父。」
父「潤か。……どうした?」
潤「智のこと……」
父「馬鹿。ここでは"王子"と呼べ。お前と智様が兄弟だということは、村人には秘密にしてあるんだからな。」
潤「……わかった。」
小声で親父と話を終えると、村人のひとりがまた声を張り上げた。
村1「このままじゃこの村は滅んじまう!なんとかならないのか!」
村2「なんとかと言われても……確かに、このままじゃ女房や子供を養うことは難しいよな……」
村3「そうだ!こういうのはどうだ?」
みんな、その村人の話に耳を傾けた。
村3「そこにいる潤と潤の親父さんは、王宮仕えしているじゃないか。そこでだ。ふたりに城の食料を少しばかりもらってきてもらうのはどうだ?」
潤「っ!?」
城の食料を……!?
潤「ば、馬鹿な!それは無理だ!」
村3「なぜだ?ふたりとも、あの王子の信頼を得ているっていうじゃないか。ちょっとばかりもらってこれないのか?」
潤「それはっ……」
……わからない。智のことだから、もしかするとダメと言われるかもしれない。
……いや、きっとダメだ。ただでさえ食料が足りない時期だ。わがままな智には……さすがに言えない。
村3「なあ、無理か?」
父「……いや、無理ではない。」
潤「えっ!?」
一体親父はなにを……智の乳母がわりの親父なら、あのわがままさはわかってい
るはずなのに。
父「少しいただいてくればいいのだろう?それならわけないさ。」
潤「お、親父!どういうことだよ!」
俺は、思わず親父を問い詰めた。
潤「親父、さとし……王子のあのわがままさ、わかっていってんだろ!?ばれたら……」
父「……仕方ないだろう。村のためだ。」
潤「え……」
父「このままでは、間違いなく村は滅ぶ。そうならないためにも……盗み同然になってでも、食料をもらってこないとならん。」
潤「親父……」
父「頼む、潤!このとおりだ!」
親父は、俺の目の前で土下座をした。親父が土下座するなんて、初めてだ。……それくらい、必死なのかよ。親父……
潤「……わかった。」
そしてついに俺は根負けし、そう答えてしまった。
そう。この行動が、智を狂わせてしまうとも知らずに……