□声をなくした先には
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私の生活スケジュールは狂っている

起きて食べて叫んで食べて、貴方に抱かれてまた叫んで食べて寝る
その繰り返し。エンドレス



「うぁぁぁぁああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」



無我夢中で叫ぶ
近所迷惑も憚らず唯々叫んで息を切らして
ついに声も出なくなった時差し出された水



「息絶え絶えじゃねぇか」

「ヒュッ………!」



返事をしようにも声が出ず空気が洩れるのはいつものこと
だからこそ何も言わず背を擦り水を飲ましてくれる京平



「飯出来てるから食え」



言われるがままに空いたお腹に食物を入れる
私にとって食事とはエネルギーを蓄えるだけの行為
生きていく為に必要不可欠なもの



「きょ、へ……抱いて」



食べ終わると決まってこの台詞を呟く
やっと出た声だからか掠れた声は行為を思い出す為興奮材料

京平は何も言わず私の気が済むまで抱き続ける



「ぁ……きょーへぇ……好きぃ」



意識が朦朧とする中快楽の波に呑まれた










行為が終わると気絶する
逆手にとれば気絶しなければ満足しないのだ

目を覚ますと決まって元気になった声帯で叫ぶ
そして声が出なくなると昼間の様に京平が世話してくれる
違うのは私を照らす光が自然か人工物かだけ



「……なぁ。一つだけ教えてくれ」



珍しく食事中に声が聞こえた
私は声が嫌いなのに。だから京平は極力喋らないはずなのに

何?返事の変わりに首を傾げる



「最初で最後の頼みだ。答えて欲しい」



前置きの後意を決したのか吐き出した息を吸う音が聞こえた



「何で毎日"声帯を潰そう"とするんだ?」



あ、何だ。気づいてたんだ
驚くでもなく私はひたすら心の中で拍手を送った



「声、要らないから」



最初で最後の頼みだもん
素直な気持ちを伝えた



「やっぱり、か」



それすら分かってたみたいに溜め息を吐く京平
お見事、としかもう言えないね



「もう叫ぶのやめないか?」



嫌だ。否定を示す為首を横に降る



「なぁ」



我慢の限界が訪れ私は机を両手で叩いた
バァァアンッ!
大きな音と突然立ち上がった私に驚いたのかいつもより多少目が開いた京平



「うるさ………ヒュッ!」



怒鳴ろうとしたのに途中で空気が洩れた
嗚呼。やっと声が離れていった



「苺!?まさか声が……!」



慌てる京平に冷静な私
京平の力強い腕に抱き締められた私は突然途方もない虚無感に襲われた

虚無感?何で?やっと夢が叶ったのに
嬉しいでしょ?ねぇ。何で泣いてるのさ

頬を伝う涙は京平にも私にも見えないけど
私には涙を流していると分かってしまった

知らない。戻らない。後悔。手遅れ
真っ黒で果てしない闇になった心には、涙の意味なんて分からなかった



声をなくした先には

声をなくした先には何が待つの?
私の声帯はもう戻らない。一体私は何がしたかったの?
もう分からない。何もない
毎日の行動スケジュールが変わった瞬間だった





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