□裏切りのロンド
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「しーずちゃんっ」



一人外で煙草を吸っていたらスルリと首に巻き付く腕
甘い声で名前を呼ぶ女は俺の彼女
初めて好きになった苺



「どうした?」

「寒いだけー」



猫の様に擦り寄る苺
髪を蠢かす頭に手を回し、少し紫になった唇に噛みついた



「んっ……静ちゃんの口温かいね」

「そうか?」

「うん。でも手は冷たい」



包み込む様に手を握られる
自然と視線を落としたら「でもね」と聞こえる声
見上げた顔は聖女の様だった



「手が冷たいのは心が温かいからなんだよ。知ってた?」



小首を傾げる苺の唇を再び塞いだ











幸せなはずだった
つまらない毎日も苺がいるだけで輝く

けど、今俺の目に映る世界は色褪せている



「悪い。耳悪くなったみたいだ」

「静ちゃんの耳は正常だよ。"別れよう"って聞こえたなら、ね」



ふざけるな。別れよう?絶対嫌だ



「離れないでくれ。傍にいて欲しいんだ」



きっと嘘だ。少し遅れたエイプリルフールなだけ
苺はまた微笑んで俺を抱き締めて"嘘だよ"って言うんだ
そう。だから今俺の耳に聞こえるのは雑音



「もう、しつこいな。私は一度も静ちゃんを愛したことなんてない」

「なっ……!?」

「"木崎林檎"」

「誰だそれ?」

「聞き覚えない?」



"木崎林檎"。思い出した
昔幽につき纏ってた女
幽に頼まれて脅して……どうなったかは知らない



「思い出したみたいだね。あの人は綺麗で優しくて…憧れのお姉ちゃんだった」



姉?苺の姉だったのか
悲しそうに目を伏せた苺は顔を上げ俺を睨んだ

苺に睨まれた。その事実が胸に突き刺さる



「だけど貴方に追い払われ幽さんと離され希望を失い…自殺した」

「それは、俺のせいじゃ……」

「責任転嫁しないで!貴方は、貴方が……!」



頭を抱え踞る苺
近寄ろうと歩を進めると響く怒声



「近寄らないで!」



立ち去っていく苺を目で追うことしか出来ない
不意に鳴った携帯から行進曲が流れた



裏切りのロンド

忘れたい。忘れたくない
苺との思い出、気持ち。矛盾した感情が渦巻く

願わくば、姉を脅すとこからやり直したい



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