黒子のバスケ小説

□一緒に奇麗な月を
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「猫が寝転んだ。キタコレ!」

ダジャレ、それは彼の趣味である。
クールな見た目に反したそれを周りの人は彼の残念な所だと言う。
残念なイケメン。その言葉がまさに当てはまってしまうらしい。

でも、私にはそれは短所で残念な所とは思わない。
むしろ、いつも周りのためにがんばっている冷静沈着な彼のささやかな息抜きの行動で楽しみなのだと思っていたりする。
そのため、 寒い と言われがちな彼の安直なダジャレも私は寒いとは思わないし、むしろ面白いと思ったりして好きだ。

思いついたネタを彼の秘蔵のネタ帳に書き込んでいく、このノートはもう既に100冊を超えているとか。
今も、思いついたネタをネタ帳と呼ばれるそのノートに書き込んでいる。

どうやら、彼を見つめている事に気がついたらしい。
見ていた猫から離れ私の元へ小走りにやってくる。
「八神じゃないか、どうしたんだ?こんな時間に。」
疑問と心配。
こんな時間というのは今が、もう8時を過ぎた夜でここが野外だからと言う事だろう。
なぜこんな時間に外に出ていて彼を見つけたかというと、それは今が我が誠凛高校バスケ部の合宿中だからである。
部員の激しい練習と、監督や、マネージャーである私のサポートやデータ収集。
忙しさと楽しさが静まった静かな夜。

「いえ、すこし散歩をしようと思いまして。伊月先輩はどうしたんですか?」
「そうか、いやオレも散歩。なんか月が見たくってさ。でも、こんな時間に女の子が一人っていうのはな・・・。」
疑問は引っ込み残るは心配。
優しい彼に実は少し怖かった暗闇が明るくなった気がした。
「ごめんなさい、でも私もなんだか月が見たくなったんです。」
「んー、しょうがないな。でも、次からは俺や他のやつにも言ってからにするんだぞ?
 みんな心配するからな。」
「はい!」
そういって、私の頭を優しくなでてくれる彼に元気に返事をする。
「よし!」
ぽんぽん と、2回軽く私の頭をなで手を離す。
少し寂しいと思ってしまう。

「ところで、伊月先輩最近は新しいネタ思いつきました?」
寂しさを紛らわすために話題を振ってみる。
「そうだな、ついさっきも1つ思いついたよ。」
「猫さんのですね。さっき聞こえました。伊月先輩らしくてとても良いと思いますよ。」
聞こえていたためその事と感想を伝える。
「そうか、八神は本当に優しいやつだな。
 俺のダジャレを真剣に聞いて嬉しい感想を言ってくれるのはお前だけだよ。」
そういって微笑みまた私の頭をなでてくれる。
彼の笑顔を見ていると奇麗だなあ、と思う。
そして、彼自身も輝く美しい月のようなイメージをしている。
私はそんな彼を見るのが好きだ。
今日突然月を見たいと思ったのも彼を思い出したからである。

「えへへ。私、伊月先輩のダジャレ聞くの好きなんです」
思っている事を伝えると彼はさらに嬉しそうな顔をした。
「サンキューな。」


その後しばらく伊月先輩とお話をした。
バスケの話や、学校の話、日常の微かなお話。
時間はあっという間に過ぎた。
気がつくともう、時計は9時をさしていた。

「そろそろ、戻るか。体が冷えると風邪ひいいちゃうかもしれないし。
 あ、八神もなんかダジャレ思いついたら教えてくれよな。」
合宿所に戻るために座っていたベンチから立ち上がる彼。
「ダジャレ、ですか・・・。うーん。」
言われて、つい立つのをやめ考え始めてしまう。
私が考え始めたのを察したらしく彼もたったまま帰らず私を見ている。

目に入ったのは私を見つめる伊月先輩と、バックに大きな月。

「あ・・・。」
つい声を漏らしてしまう。
「ん?何か思いついた?」
座っていた私を覗き込む彼に私は赤面しながら慌てて考えを消し去るべく
「なんでもないです!」と言って立ってしまう。
「なんでもないってことはないだろう、言ってみ?」
やはり、誤魔化すのは無理だったようで私を見たまま動かない彼。
きっと言うまで彼は詰め寄ってくるのだろう。
たとえ今は逃しても明日聞きに来るとか。

「うう、後悔しません?」
これから私が言うのは今まで貯めていた密かな気持ち。
「しないよ。大丈夫。」
真剣な顔。
意を決する私。

彼と月を交互に見て、
少し深呼吸をしてから解き放つ想い。


「伊月先輩と一緒に奇麗な、良い月を見たいです」

「え。」
少し変かもしれない、でも今の私の気持ち。


「今日は・・・  月が奇麗ですね 。」


それは、叙情的な愛の告白。




*次はあとがきとひさびさの  おまけ  です!
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