一万打ありがとう企画

□全てが終わった夏の日
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どんよりとした曇り空
ざぁざぁと降り続ける雨
その中を舞う白球

そして、全ての終わりを告げるサイレン

全てを失ったあの日の夢を未だに見る
あの、夏の日の夢を
それからの、抜け殻のような日々を…

高校3年の夏
主将として、再び甲子園への切符を掴むため全力で挑んだ夏
俺達の初戦の相手は、新設高
部員は1年だけ
油断していなかったといえば嘘になる
それでも、俺達は全力を尽くした

それなのに、俺達は負けた
悔しかった…悲しかった
早すぎる終わりに、全員が涙した

『あの4番のヒットはすごかったな』
『あの投手の球、もっと早く攻略できてりゃなぁ〜』
『準さんの癖盗むとは思わなかった〜!』

あれからずいぶんたった今でも、みんなで集まるたびにその話題になる
たいていは、西浦の4番の話と投手の話
無理もない、その2人の活躍は目を見張るものがあった

『後のことは任して、お前の一番いい球投げろ!!』

でも、俺が一番印象に残ったのはあの声だ

『お前の投げる球なら誰も文句ねぇから!!』

あの試合の最後、ライトの彼からかけられた声
ネクストまで聞こえる、ハッキリとした声
心の底から投手を信頼してるんだとわかる真っ直ぐな声

そして、彼のあのバックホームが試合を終わらせた

試合後、彼らに俺達の思いを手渡しに行った時、初めて彼をハッキリと見た
まだ細い成長途中の体
俺たちが来たことに、戸惑いを隠しきれない、残る幼さ
けど、その目は
あの声と同じように、意志の強そうな光を宿していた

ただ、もう会うことはないと思っていた
俺は引退し、大学受験一色になる
彼はこれからも試合をこなし、主将として部を纏め上げていくだろう
試合をすることがない以上、きっと会うことはない

それが、少しだけ残念だった

それから希望の大学へ進み、そこでも俺は野球を続けた
一度は全てを諦めそうになった
野球をやめてしまおうとも思った
でも、かつての先輩の姿を見て、こんなふうにはなりたくないと思った
強くなりたいと、心の底から願った
それに

『ありがとうございました!』

彼の、あの真っ直ぐな声と瞳
野球をやめようと思うたび、それらが頭をよぎった
まるで、諦めるなとでも言いたげに

大学へ行っても、そこで主将になっても、卒業しても
それらが俺の中から消えることはなかった
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