一万打ありがとう企画
□全てが終わった夏の日
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「河合さん…?どうしたんですか?」
心配そうな彼の声で、俺はふと我に返った
どうやら、ずいぶんと昔のことを思い出していたらしい
「すんません、河合さん疲れてるのに…」
「いや、少し昔を思い出してただけだ」
そういって笑いかけてやると、少し困ったように笑みを返してきた
目の前にいる、意志の強そうな瞳をした少年
いや、今は青年というべきか
始めてあった頃より伸びた背に、一回り大きくなった体
でも、あの瞳と声は今も変わらない
あの夏の日から3年後
彼は、偶然にも俺と同じ大学にやってきた
向こうも俺を覚えていたらしく、自己紹介のとき俺を見てポカンとマヌケな顔をしていて、思わず笑ってしまった
最初は少しだけぎこちなかったものの、すぐに俺達は仲良くなった
真っ直ぐで照れ屋で優しい彼は好意的な人物だったし、高校時代部の先輩というものに縁のなかった彼は俺を慕ってくれて、何かと頼りにしてくれた
そして、そんな彼が俺の一番大切な人になるのに、そう時間はかからなかった
「というか、いい加減二人のときは名前で呼んでくれないか?」
「ふぁい!?」
その瞬間、妙な声を出して真っ赤になる彼を、心の底から愛しいと思う
甘えたがりの癖に、甘え方を知らない不器用な恋人
「そういう約束だったろ?…梓」
「か…かか、和、さん…そういうの、ずるいっす…」
もしも、あの声がなければ
あの真っ直ぐな声を聞かなければ
俺はきっと、あの夏の日の思い出のように彼に背を向け、部員としてしか関わらなかっただろう
意外に人の想いに敏感な彼も、俺に近づきはしなかっただろう
そう思えば、あの夏の日は全ての終わりの日であって
全ての始まりの日だったのかもしれない
そして、全てが始まった夏の日
コレでもかというくらい真っ赤になってしまった彼を、愛しさとともに抱きしめた夏の日の話
→あとがき