一万打ありがとう企画

□不器用者たちの恋
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俺も花井も、あまり器用なほうじゃない
特に、色恋沙汰なんて不器用以外の何者でもないと思う


「………」

この状況は、いったいどういうことなんだろうな
俺は、机の反対側に座るやつを眺めながら気づかれないようにため息をついた

今、花井が俺の家に来ている
篠岡がまとめてくれた今度の対戦相手のデータの分析をするため
…というのは半分建前で、正直最近恋人になったばかりの花井を家に呼びたかったというのが本音

今日はミーティングだけの日、明日は放課後練習はあるけど朝練はない
そして、幸運なことに今日はおふくろもシュンも帰りが遅い

これだけの好条件がそろってて、恋人を家に呼んで、何も期待しないほうがおかしいと思う
そして、呼ばれたほうも何かしらのリアクションをとったっていいと思う
なのに…

『あれ?今日おふくろさんや弟さんは?』

『あぁ、なんか二人とも遅くなるってさ』

『ふ〜ん』

と、花井は何も気にしてないかのようにさっさと部屋に向かい

『こいつ要注意だぜ、中学のときからホームラン飛ばしてたし』

『篠岡のデータにもそう書いてあるな…守備位置深めだな』

と色気もくそもなく真面目にデータ分析して、今は英語の予習をしている
俺はといえば、確認し終わったビデオと資料をもう一度見直している
もちろん、内容なんて頭に入っていない
というか、大体はもう頭に入ってるしな
花井は花井で、俺なんか見向きもせずノートにつらつらと書き込んでいく
俺たちの間に、甘い雰囲気とやらはまったくない

これじゃ、友達のときとなんら変わんねぇ
俺たち、一応恋人同士なんだよな?

俺が花井にダメ元で告白して、花井がOKしてくれたのが約一ヶ月前
それ以来、俺たちは世間で言う恋人同士とやらになったはずなんだが
正直、ここ一ヶ月何も進展がない
というか、友達のときとなんら変わりない生活を送っていた

俺も花井もまだ高校生で、部活も忙しい
だから二人っきりになれるときなんて滅多になくて
男同士だし、花井は恥ずかしがりやだから人前でイチャつくなんてできるわけもなく
せいぜい部活帰りに別れ道までたわいもない会話をするくらいなもんで(それも田島やら誰かしらに邪魔されることも多いが)
付き合い始めて、初めて!ようやく!二人きりになれたのに

それなのに、甘い空気のかけらも出ないってどういうことだ?
前きたときとまったく変わらない態度の花井に、俺はもう一度ため息を吐いた
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