一万打ありがとう企画

□不器用者たちの恋
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花井の側は、正直居心地がいい
花井は、人との距離のとり方がうまい
俺が触れてほしくないところ、入ってきてほしくない場所をうまく避けて接してくれるし、自分が立ち入ってほしくない場所からはさりげなく遠ざける
俺も、花井が触れて欲しくないものには極力触れないようにしている

友達のままなら、それでよかったのかもしれない
でも、俺は花井が好きになって、花井もそれを受け入れてくれて
そうなると、やっぱり人間欲が出てきて
花井のことを知りたいと思った
距離を縮めたいと思うようになった

でも、他人との距離の縮め方…なおかつ恋人との距離の縮め方なんて俺にはわからない
二人きりになれれば、自然と縮まるんじゃないかと期待したんだが、そんなことはなかったみたいで

「俺ちょっとコンビニ行ってくるわ」

だめだ、このまま考えてても仕方ない
気分を変えようと、ビデオを消して立ち上がったら、ようやく花井が俺のほうを見た

「何?何か足りないもんでもあんの?」

「飲みもんかなんか買ってくる」

花井はいるもんあるか?といいかけたその時

「…俺も行く」

花井も、ノートをぱたりと閉じて立ち上がった

「花井もなんかいるのか?」

「俺も何か飲みもん欲しい」

「じゃあ俺買って…」

「俺も、行きたいっつってんの」

あ…
花井の耳が、少しだけ赤いような気がする
よく見れば、花井は視線をうろうろとさまよわせている

「…何?俺と一緒に行きたいとか?」

からかうような声色で、花井の顔を覗き込んでみる
少しだけ、震える手を隠して

「…悪いかよ」

必死で否定すると思った花井は、意外にもむすっとした、どこか拗ねたような表情で俺をちらりと見る
あぁ、何だこの状況
さっきまで、甘い雰囲気のかけらも感じられなかったのに
少しだけむず痒くて、それでいてどこか照れくさいこの状況は
花井の熱が伝染したみたいに、頬が熱くて仕方ない

「あ〜…じゃあ一緒に行くか」

「…お〜」

お互いを直視しないようにしながら、俺たちはどこか不自然で、どこか甘い雰囲気の中コンビニに向かった



不器用者たちの恋



「花井、何買うんだ?」

「え……ア、アクエリ…阿部は?」

「あ〜……ポカリ…」

コンビニに向かう足がいつもより遅いのは、きっとお互いもっと一緒にいたいから





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