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□チョコレート先生
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2月13日
セントバレンタインデー
の前日。
バレンタインのチョコを作る日だ。
俺、花村陽介は今、ジュネスに並んでいるバレンタインコーナーの前で悩み中だ。
「う〜…どーすっかなぁ…」
「何が何でどうしたクマ?」
「おわっ!…ないんだクマが」
「ないんだとは何ですかー!」
「何しに来たんだよ…」
ほら、仕事に戻れ。と促す。
しかし嫌々とだだっ子の様に暴れる。
「クマは宣伝しに来たのー!」
「宣伝?何の」
「ヨースケは分かってないクマねー」
チッチと指を振り、しょうがないから教えてあげるクマ!!と腰に手をあててふんぞりかえる。
「明日は『ばれんたいん』ってやつでしょ?」
「まぁ…な」
「だから、いろんなパートの人とかお姉さんとかに、クマにチョコレートを与えてくだせ〜!っていい回ってクマはチョコレートの山でウハウハできるクマ!」
「アホらし…」
「ヨースケは貰えるあてがないからそう言えるクマ!!」
「だいたい、チョコなんていつでも食えるじゃねーか!」
「だから!ヨースケは分かってないクマねー!」
クマが身振り手振りで熱弁している。
チョコなんて甘いお菓子なだけだ。
別に珍しくもなんともない。
「その日、に貰えるチョコレートは特別だって、りせチャンやナオチャンが言ってたクマね」
「直斗も?」
りせがそんなことを教えるのは分かるが、直斗まで言うのは珍しい。
「もらったチョコレートには相手の好きって気持ちといつもお疲れーって気持ちがたくさん入ってるとも教わったクマ」
「お疲れか…」
俺にはそんな気持ちを渡す人、貰う人が頭の中に一人、すぐに浮かぶ。
「だから、いつも頑張っているクマへのご褒美が欲しいのー」
「へいへい、まぁ頑張れよ、クマきち」
「おー!!」
はりきって、パートのおば様方に宣伝をしにいった。クマがニコニコしながら楽しみに話して、おば様は笑いつつ了承している様子を微笑みながら見ていた。
クマと目が合うと、嬉しそうに満円の笑みでピースしている。
「さてと…よしっ!!」
俺は決心をつけ、バレンタインコーナーの可愛らしいラッピングのチョコを手に取り、レジに行った。
「あらぁー、陽介くん」
「あ、お疲れ様っす」
レジには顔見知りのパートのおば様がいた。
「何?チョコ買うの?」
「ええ、まぁ…」
「逆チョコってやつ?陽介くんに彼女がいたなんて初耳よー」
「い、いえ、彼女なんていないっすよ…」
「えー、じゃあこれは何チョコなの?」
「え、えーと…」
まさか、あいつ用とは言えない。
言葉を考えて言い訳する。
「クラスのみんなでチョコを一つ持って交換しあうんですよ」
「へー、面白いわね、あ、はいチョコ」
「ありがとうございます」
会計を終えてホッとする。今日はもうバイトも終わり家に帰る。
「ヨースケ!帰るクマ」
「終わったのか、宣伝」
「たくさんの人にできたクマ、明日が楽しみね」
「そっか、じゃあ行こうぜ」
「クマ」