星屑

□『罪人の償い』
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 不動遊星が入院した
 あまりに根を詰めすぎたのだろうか、彼は作業中にふらりと立ち上がったと思ったら仲間たちの前でそのままドサリ、と倒れたのだ。褐色の肌の頬を赤くさせ、ぐったりとしていた彼。実際、その熱を測ったところ39度と高熱を発していた。何を食べても吐いてしまい、あまりのひどさに彼は一週間点滴で生活するために入院することになったのだ。だが、実際は二日ぐらいでよくなり、今では点滴ははずれ、普通に食事をしている。だが、熱はやはり下がらないので入院しているという事だ。本人いわく「早く帰りたい」という事だったが、クロウやジャックがそれを許さず、彼は不満を抱えたままそこに居座っていた。

「そう、不満そうな顔をするな遊星。貴様はいつも根を詰めすぎなのだ」
「・・・・わかっている」

 病室のベットの上で両膝を抱えながら、不満そうに唇を尖らせる遊星に、ジャクックはふう、と軽くため息を就いた。

 昔からの好で、この人間の性格はよく知っている。仲間のことは大切なくせに、自分のことに関しては仲間の忠告を無視し、いつもむりばっかりをする。昔も、よく作業中に風にかかったことはあったが、このようにひどいことになったは初めてであった。だが、ジャックはそんな彼の所が愛しくてしょうがない。

「無茶をするな遊星。」

 彼のすっかり健康になった頬に優しく触れ、ジャックはいかにも愛しそうな瞳で彼を見つめ、言った。しかし、遊星という男はそんな瞳に不慣れしているのか、それともただ鈍いだけなのか、「すまない」と青い瞳でジャックを見上げ、逆にジャックが不覚にも胸の高鳴りを覚え、その頬に触れた手を離す。

 それから少し時間がたったぐらいだろう。
 ジャックと遊星はそれぞれ別の事をしながら、静かな時を過ごしていた。会話のない一見さびしげに見える空間はジャックはとても満足していた。お互い「イリアステル」やらなんやらでこういう静かな時を過ごしているのはある意味、子供のころ以来かもとさえ思ってしまう。

 だが、その静かな空間に病院には珍しい音が響いた。
 廊下を走る音だろうか。しかし、お互いそんなことは気にもせずにその空間には静寂だけ続いている。
 そのときまでは、

「遊星っ!」

 ガラッ、と勢いよく扉が開き、その静寂は破られた。二人はいきなりのことに両方とも大きく目を見開き、その扉のほうへと反射的に顔をそらした。そこにいたのは水色の肩まである髪を揺らしながらいた、鬼柳京介だった。その手は何かに対する恐怖で埋められており、今まで走っていたのか、彼の白い肌には無数の汗が浮かび上がっていた。
 
「・・・・遊星・・!」

 ふらりと彼は遊星の前に倒れるようにひざまずき、彼の手とった。ガサッとなにか、ビニールが落ちた音がしたが、彼はそんなことには気づかないようで、まるでぬくもりを確かめるように、いや、実際そうなのかもしれない、頬にその手を擦り付けていた。遊星はもちろんびっくりしているが、ジャックは大きく目を見開いてそこから動くことができなかった。
 
 理由はもちろんいきなりということでもあるが、それだけではなかった。彼の表情はあまりに愛しそうに、やしそうな表情をしていたからだ。先ほど、顔には汗が無数浮かんでいたが、目にあるしずくは、涙かもしれないとジャックは思った。

「き・・・鬼柳・・・?」

 我に返ったのだろうか、遊星が少し頬染めて、鬼柳にの名を呼んだ。すると、鬼柳は彼の手を自分の頬に当て、

「よかった・・・」

 と、泣きをこらえるような声で言った。
 しかし、ジャックは察した。その声は泣きをこらえる声であったが、実際、彼は泣いているだろう。無数の汗で、涙は見えないがその瞳には確実に涙が浮かべられているだろう。しかし、んな状況分析をしている自分に彼は気付き、

「な・・・何をしている!?」

と思いっきり叫んだ。

 それに遊星は目を丸くし、鬼柳は無数の汗の浮かんだ顔を驚きの表情に変え、こちらを見た。

「いきなり来たかと思えば、一体どうしたんだ、鬼柳!?」

「ジャック・・少し音量を下げろ・・・」

「遊星は少し黙ってろっ!」

「ジャック!遊星になんて言い方するんだっ!」

「元々は貴様のせいだろっ!」

 その会話が始まり、そこからはほとんどジャックと鬼柳の喧嘩のようになってしまった。遊星は何とか中間に入ろうとするものの、お互い売り買いに買い言葉状態で、間に入る余地なんてなかった。結局遊星はオロオロとすることしか出来なかった。しかし、やっとその異常に気付いた50代のベテラン看護婦が、ガラッ、とその扉を開き、恐ろしい形相で

「ほかのご患者様に迷惑です!!!」

と、掠れた声で言えば、ピタリとその喧嘩は止み。喧嘩していた二人はもちろん、患者である郵政まで顔色は青ざめていき、「はい」、としかいいようがなかった。
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