dream/short ブック
□彼の優しさ
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足音が近づいてくる。
かろうじて走ってはいないけれど、おそらく病院内では迷惑になる速度。咎められてないのはきっともの凄い形相に周りが怯んでいるから。
荒々しい足音は私の病室の前で止まって、その主は勢いよくドアを開けた。
「ノックぐらいしたらどう?」
眉間には深い皺が刻まれていて、それは私を見て一瞬弛んだけれど、また深くなった。
「それから、病院であんな足音立てて歩くのも迷惑」
そう言ったら、静かに、ベッドの上で半身を起こしているわたしの傍まで来た。
顔は合わさず、私の左腕があった場所を凝視している。
「無様よね。でも、生きていただけで奇跡だと思わない?感染症の心配もないそうだし、」
泣くな。泣いてはいけない。
「今までの評価も考慮して兵団に残っていいって団長が。最も前線はもう無理だけど」
「わかったから」
私の頭を彼はぐっと抱えた。
その背中に腕をまわす。
「リヴァイ、貴方を抱きしめる腕が、一本減ってしまった」
泣いては、いけない。
それは無理だった。
涙でぐちゃぐちゃになっても、彼は私を離さなかった。
「生きていただけでいい」
今、彼が私の顔を見ないのは優しさからなのだろう。