dream/short ブック
□それぞれの発露
1ページ/1ページ
初めての壁外調査後は皆それぞれ泣いたり吐いたりするもので、俺も少なからず動揺した。
同じ種族である人が目の前で喰われるのだ、正常な反応だと思う。
そんな中、一人淡々と報告まで済ませ日常と変わらない様子の女がいて、そいつは精神力が凄まじいのではなく最早おかしいのではないかと誰かが囁いていた。
その時は変わった女もいるもんだと思っただけで特に気には止めていなかった。
夜、兵舎に戻る途中に物音が聞こえた。扉を開閉する音。向くと、そこは遺体を安置している棟だった。夕方あたりまでは遺族やら仲間やらがちらほら出入りしていたが、消灯前のこの時間帯に近づく奴はまずいない。
まさか不審者か。確認のために近づいていって扉を開けるとすぐ足元に人間が膝を抱えて丸くなっていた。開閉音に気付き、その人間は顔を上げる。
「リヴァイか」
先程囁かれていた変な女。その目元は月明かりでも判るほど濡れて赤い。泣いているようだが特に隠す様子はないらしい。
後ろ手で扉を閉める。
並べられた死体は五体満足のものは少なく、頭部だけの悲惨な姿や、遺物だけの者もいた。
近く埋葬されるであろうそれらは、綺麗にされて布がかけられていたが、それでも部屋には死臭が漂っている。
「…泣いてる女の横にいるって気まずくない?」
「気まずい」
「なら、そのまま放っておけばよかったのに」
「出て行って欲しいならそうするが」
「どっちでもいいよ」
どっちでもいいという言葉通り、俺なんかこの場にいないそぶりで彼女は小さな嗚咽を交えながら膝を抱えて泣き、やがて泣き止むと並べられた死体のほうを見ながら呟いた。
「どうしたら強くなれるんだろう。肉体的にももちろんだけど、精神的に」
「精神的なことに関してお前が弱いとかは聞いたことない。むしろ評価は逆だ」
まさか答えを返されるとは思っていなかったらしい。一瞬だけこちらを見たが、すぐに視線は元のほうへ向いた。
「外面はね。公私混同しないよう必死だけど、それ以外はいつもこんな感じ。弱くて嫌になる」
「感情の沸き方と表し方に個人差があるだけだ。弱く見えるか見えないかは別として。受け止めきれなかったら弱るが…どういう風に発散しようと個性であり自由だろう」
「正論」
「そう思ってないと潰れる」
「そうだね、そう思ったら少しは楽だね」
ありがとう、と言って彼女は行ってしまった。
そのときそれだけの関係だったので彼女がなんと言う名前だったかももう思い出せない。
自分を弱いと表していた彼女は、まだ、生きているのだろうか。