dream/short ブック

□野獣の正体
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訓練が終わっても先輩であるイレーネと自分の目付け役であるリヴァイが訓練場から動かなかったのでエレンは不思議に思っていた。
そして兵舎に戻ってからしばらくして、ふと窓から訓練場を覗いて驚いた。

「あ、ハンジさん、あの二人が…!」

窓から見えた光景は、二人が殴りあい蹴りあいの凄まじい喧嘩をしている様。

「ああ、いつものことだよ」

たまたま通りかかったからと言ってこの人に聞いたのが間違いだったのかもしれない。いつものことって。

「あの二人、あんな喧嘩するほど仲が悪いように見えなかったんですが…」

「あはは、喧嘩じゃないよ。組み手組み手。大体規則で内々の喧嘩は罰則くらっちゃうし。リヴァイが本気出したらそんな時間かからずにイレーネは沈められてるだろうしね。結構久しぶりに見たなー」

「久しぶりって、前にもやってたことあるんですか」

「一番最初は調査兵団に入って、初めての壁外遠征のあと。大体周りの実力を把握し出してきた頃だったね」





「付き合ってほしいんだけど」

訓練後にイレーネがリヴァイに放った言葉に周囲はざわついたが言われた本人は至って冷静だった。

「どこだ」

いやいや場所じゃないだろうと聞こえた人々は内心つっこんだが、返事は「ここでいい。上官の許可は取ってきた」だった。

訓練場から兵舎へと戻る人の流れに逆らい、人気がなくなったところで激しい組み手が始まった。
もっとも、訓練後の疲れた身体、続いたのは1時間程度で、イレーネは途中操り人形の糸がふっつりと切れたように倒れた。





「イレーネが倒れた後は目覚めるまで食堂の隅に転がしておいて、目覚めたイレーネがそのまま食事を摂るまでがパターン」

「はあ。でもなんでそんなことを、リヴァイ兵長に?」

「彼女の同じ班で姉妹のように仲良くしていた子が戦死してね。彼女なりの発散方法だったんだろう。けど、イレーネも実力者。訓練後の疲れた身体で並の人に相手してもらうのは怪我の可能性があるから危険だと判断した。それでリヴァイに白羽の矢が立ったんだよ」

「…でしょうね」

窓から見えるだけでも相当ハイレベルな攻防戦が繰り広げられているのがわかる。エレンも対人格闘術に関して多少自負はあったが、あそこに入っていける自信はなかった。

「リヴァイも健気だよねー。『彼女』だったら抱きしめて慰めてあげられるのに。組み手に付き合ってあげるだけなんて」

「ええ!?兵長、イレーネさんのこと!?」

「勿論本人が断言したわけじゃないけど。でもさっきの理由だってリヴァイが気付いたことを聞いただけだし。イレーネだって毎回リヴァイに頼む辺り…あ、」

エレンが再度外を見ると、前のめりに倒れるイレーネをリヴァイが受け止めていた。そのまま抱きかかえ兵舎のほうへ歩いてくる。

「そうでもないとあのリヴァイが訓練後の泥まみれ汗まみれの身体をあんな大事そうにお姫様抱っこして運ぶと思う?」

「そうですね」

リヴァイがこちらに気がついたらしい、見上げてきたその目はさながら美女を守る騎士などと爽やかなものではなく、まるで野獣のように荒々しい敵意のようなものを醸し出していた。

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