dream/short ブック
□似非耽美
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訓練兵と現役兵の交流会。
憲兵団、駐屯兵団、調査兵団からそれぞれ優秀な人物を派遣する。憲兵団はともかく、万年人材不足の調査兵団にとっていかに新兵を勧誘できるかは重大なことだ。
朝から一緒に訓練をして、夜は消灯時間をいつもより少しだけ伸ばし食事会が行われる。
各々興味のある兵団の話を聞くために自由にテーブルを移動して食事を取りながら談笑している。
やはりテーブルに集まる人数が多いのは憲兵団、次いで駐屯兵団。
調査兵団は最も少ない。それぞれ10人は派遣されているが、質疑応答を話の上手な数名に任せてしまうと他は手持ち無沙汰になってしまった。それでも志願者がいるだけマシかもしれないが。
そんなわけで決して愛想がよいとはいえない人類最強の兵士長とその横に座っている恋人のイレーネ・シュミットの周りには必然的に人がいない。
だが、その二人に視線を送る者達がいた。
リヴァイは気付いていたがイレーネは気付いてないらしく、成人にだけ振舞われた酒をチビチビ飲んでいる。
「イレーネ、あそこの3人の訓練兵知り合いか」
「ん〜?誰誰?」
人に遮られて見えなかったらしい。上体を傾けて顔をリヴァイのほうへ近づけるイレーネ。駐屯兵団のテーブルで3人で一列になって座っている訓練兵はいずれも女子。そしてイレーネがリヴァイに顔を近づけて見たとき、5人の視線がそれぞれ一瞬重なった。すぐに逸らしたのは訓練兵達のほうで、なにやら顔を寄せ合ってひそひそと言葉を交わしている。
しかしそれは嫌味なものではなさそうで、どっちかというと興味があるような。
「皆知らない子達だなー。リヴァイ兵士長様のファンじゃない?話かけてあげれば」
「それはない」
事実、リヴァイからは喋ってなくとも握手を求めてきたり個人あるいは数人で突撃のような形で質問してくる訓練兵は何人もいた。語らずとも、共に訓練をしての実力を間近に見てだろう。
今はその波は落ち着いたが、その中にあのような3人組はいなかった。
「私はファンできるほど有名じゃないし」
「だろうな、髪にゴミつけているようじゃ」
「え、うそ」
そういう少し抜けたところも可愛いなんて口には出さない。
リヴァイが手を伸ばして髪についたゴミを取ってやっている間も、イレーネはその3人組みのほうを見ていた。
「…ああ、そっか」
なんかわかったのか、とリヴァイが聞く前にイレーネの腕が首に絡み頭を抱え、その唇がリヴァイの頬に触れていた。
ガヤガヤと騒がしい中で彼女達が小さな悲鳴のようなものを上げたように見えた。
「ビンゴ」
「…なにがだ」
ワケがわからない、という顔をしているリヴァイにイレーネが笑って説明をする。
「ほら私身長170超えてるでしょ。ショートカットだし、パッと見て男にも見えるじゃない?」
「線も男のそれに比べれば細いし単純に目鼻立ちも整っているとは思うが」
「いやまぁフォローは嬉しいけどこのさいちょっと置いといてですね。目鼻立ちが可愛らしい女の子って言う感じじゃなく、どっちかっていうときっぱりさっぱりしてるのは関係あるかな。彼女達は要するに男色が好きなんだよ」
全く持って理解できないという顔をするリヴァイにかまわず続ける。
「つまり私を男に見立ててリヴァイとの関係性を妄想して楽しんでるんでしょう。害も敵対心も何もないから大丈夫大丈夫。むしろこれで調査兵団希望してくれたりして」
それにカップルという点で何も間違いはないしねーと呑気に言うイレーネ。
男色といえば女役の男が存在する。
リヴァイはイレーネより10cm以上身長が低く、更に言うと先ほどキスを「された」のはリヴァイのほうであるわけで………。
そこまで考えて苛々している己を認識したリヴァイはそれを解消するための行動に出た。
酒を継ぎ足そうと腰をあげテーブル中央へ伸ばすイレーネの腕を掴み、こちらを向かせて深く深く口づけた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
手足をバタバタさせる抵抗は、しかし全くの無意味である。
酒に酔った野次達の中にキャーという甲高い歓声が、二人には確かに聞こえた。