dream/short ブック

□戦友
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(現拍手文の過去話。単体で読めます。)



調査兵団に入って幾度目かの班編成で一緒になった女は珍しく俺より背が低かった。
ほんの数cm、ではなくたぶん10cm以上。目線を向けるとつむじが見えるというのはなんとも新鮮だった。
そして何より容貌が幼かったので、自分より軍の在籍年数も年齢も上だということを知ったときは自分の耳を疑った。

「リヴァイくん、明日の全体演習だけど」

「その呼び方やめろと言わなかったか」

「だってリヴァイくんはリヴァイくんだし。リヴァイくんも私のこと「イレーネちゃん」って呼んでいいのよ?」

「気色悪ぃなにが「ちゃん」だ。イレーネババアの間違いだろう」

「よーしそこに正座してみようか」


そんな彼女は最近昇格して班長となり、立場上は上司となった。人材の消耗が激しいから、若くても役職がまわってくる。
色々と忙しいらしく、疲れも溜まっているのだろう、訓練以外の執務の時に机につっぷして寝ていた。

「起きろ」

「………」

何回か声をかけたがさっぱり反応しないので突っ伏している机を蹴る。

「…!?」

「机で寝るな」

「ちょっとうとうとしてただけ…」

「何回声かけても起きないくらい熟睡してただろうが」

サインを貰うため書類を渡す。
十数枚ある今渡した書類に目を通すだけでも正規の消灯時刻までには到底間に合わないだろうということが容易に予想できた。

「…次の壁外調査まで一週間切った。相当疲れているようだが」

「何、心配してくれてるの?やっさし〜。大丈夫、これ終わったら書類仕事はもうほとんど無いから。これ明日でいいやつだよね?朝礼で渡すからリヴァイくんも休みなよ」

はい、おやすみーと呑気に手を振る彼女の目元にはうっすら隈ができていた。



陣形、コンディション、全てが完璧でも壁外調査には死傷者がつきものだ。
そして、今回も。
陣形に進入してきた巨人が一体、俺ともう一人が足首の腱をそぎ落とし、倒れ傾いていく巨人の項を彼女が落としにかかったその時。

「!!」

その巨人は首だけをほぼ真後ろに回転させて彼女の左脚に喰いついた。
巨人はそのまま身体を掴もうとしたが、それよりも早く、彼女は左脚を自分で切り落とし逃れた。
かろうじてアンカーを巨人の身体ににひっかけたようだったが、ほとんど落下といって差し支えない堕ち方だった。

「イレーネ!」

左脚を飲み込む巨人の項を切り落として駆け寄る。
かろうじて意識がある状態だが、失血しているため顔色が悪い。落下したとき頭などを打った可能性もある。
なにより失血原因である欠けた左脚が問題だった。壁外ではせいぜい止血ぐらいしかできない。
今俺と、班員にできることは手早く応急処置をして衛生班のところまで運ぶことだけだった。




「愛、愛が足りないわリヴァイくん」

すでに一般病棟に移り回復しつつある彼女は大げさに嘆く真似をした。
負傷した彼女の代わりに報告その他で壁内に戻ってからは忙しく、初めて見舞いに来たのだが、他の班員は面会可能になった時点ですっとんで行ったらしい。誰のおかげで、という言葉をすんでのところで飲み込む。

「もうちょっと壁内に着くのが遅かったら死んでたかもだって。まさに危機一髪。危ない危ない」

「悪運が強くて何よりじゃねえか」

「まあね」

病室のベッドの上で笑う様子は壁外調査前となんら変わりはないように見える。

「あーあ、これで除隊かー」

それでも、脚と職を失った喪失感は誰にでもある。嘆き悲しむか、前線から離れなれて内心ほっとする等はそれぞれだが、命があっただけでもマシなほうだ。

「…待て。今除隊と言ったな」

「え?うん」

「負傷の度合いにもよるが…退役じゃないのか」

「ううん、実行部隊除隊。今後衛生部隊移動予定」

彼女はニヤリと怪我人らしからぬ笑い方をした。

「衛生部隊長と団長とに先許可とって、その他諸々駈けずり周って頂いたんだけど、『衛生部隊でリハビリがてら雑務をこなしつつ医療免許を取ることができればそのまま継続して在籍してもいい』って。期限は2年」

「……」

「壁外についてってくれる医師がいたら心強いよね。自分の身をもって知ったことけどさ…今圧倒的に数が少ないし、できることも限られてる。それを改善したい。元実行部隊員っていうことも生かせる場面もあると思うしね。これでも訓練兵団卒業の時座学トップだったのよ。勉強は見かけによらず得意だったんだから」

ベッド脇の小さな棚を見ると医療系のそれらしき本が収まっていた。
彼女は、片脚をなくして直接的には戦えなくなっても、間接的に立ち向かう方法を編み出して、実行しようと動き始めている。
それは強さと呼ぶのだろう。

「リヴァイくんは…強いからないかも知れないけど、それでも可能性がゼロなわけではない。君が怪我をしたら私が治す。だから私の分も巨人と戦ってほしい」

そう言われ差し出してきた掌を握る。

言われなくても。

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