dream/series ブック

□〜傾倒編〜
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あのあとリヴァイが用意した縄を、果物ナイフで乱切りした私の腕前に賞賛をくれてもいいと思う。
ただ「そういう用」のは特殊な加工を施してあるらしく、弁償を求められ予想外の痛い出費をしてしまった。しかし後悔はない。

その後も何度かベッドと壁の隙間を探ってみたがエロ本を再び見つけることはなかった。
置き場所を変えたか、元々正規の保管場所ではなかったか。もしかしたらひととおり読んで楽しんだらすぐ捨てているのかもしれない。
では、保管しているとしたらどこだろう。
けして広いとは言えない宿舎の個人部屋で、物もあまり多くない。
本棚なんて目立つところにはもちろん入れていないし、ベッド周囲、クローゼット、水周りと、物を隠せそうなところは全て探してみたがなかった。

「…というわけで、どこに隠してると思う?」

「なかった、っていうことは今言ったとこ全部探したってことだね…」

食器洗い当番で一緒になったナナバに話すと、呆れたように返事を返してきた。

「だんだん探すの楽しくなってきて。
1冊あれば30冊はあると思うの!」

「ゴキブリじゃあるまいし…見つかって気まずい思いをして捨てたんじゃないか?」

「うーん…そんな羞恥心持ち合わせてないと思うんだけどなー」

どこを探しても見つからず、そのうち探すこと自体しなくなった頃。

「わっ!」

リヴァイの部屋を訪ねたら留守で、鍵開いてるし中で待っとけばいいかと足を踏み入れたら部屋の中央付近でつんのめった。
何も置いてないただの木の床のはずのに。
しゃがんで眼を近づけ見てみると、それは木目に沿って作られた小さな取っ手だった。
注意してみないとわからないぐらい、精巧に作られている。元々はめられていた位置に戻したら、おそらく気がつかないだろう。
その取っ手に指を引っ掛けて引っ張ると、床の一部が持ち上がって、

「……!!」

小さな収納スペースが現れた。
中に入っているのは酒だったが、全部どかしてみると、さらに底の板が外れる仕組みになっていた。その板を取り外す。

「見つけた……!!」

前回隙間に入っていた本と、その他数冊だけだったが、ついに、見つけた!
高揚しつつ本や雑誌を床に並べて、その浮かれた表情のまま私の顔面神経は固まった。

『ハード・ソフトSM事典』
『大人の玩具使用講座』
『家でできる羞恥プレイ特集 言葉責め百選小冊子付き』

明らかに、ある一方向へ偏っている。
極め付けが、ひときわ目立つ膨れた雑誌。
間に大き目の付録ががはさまっているためだ。女性誌にもよくあるが、その雑誌に挟まっているのは、

『特別付録!低温蝋燭3本入り!』

と表紙に書かれていた。
嫌な予感がする。というより、嫌な予感しかしない。

「ベッド周りといい、クローゼットに水周り…いつから人の部屋をネズミみてぇに漁るのが趣味になったんだ、イレーネ」

ああ、これ以上嫌な予感が当たりませんように。




(おまけ)
「なんであんなところに収納スペースがあるの。しかも床にしか見えない精巧な…まさかリヴァイが作ったとか?」

「個人で作れる代物じゃねぇ…それに男用宿舎のどの部屋にもある」

「はっ…!?」

「大部屋の頃は共用だったがな。
俺も詳しくはしらないが、精巧な蓋は技巧部が腕によりをかけて作ったらしい」

「なんでそんなアホらしいところに労力使ってんのよ…」

「見つかったからにはしかたねぇが…このスペースがあることは本来女性兵には知られてはならない。もっとも、兵同士で付き合ってて知っている奴はいるようだがな。
だからイレーネ、お前もむやみやたらに言い触らしたら…わかってんだろうな」

「わかってますわかってますむしろ存在を中身ごと記憶から消去したいです」

「…………わかってるならいい」

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