dream/short ブック

□Happening
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「で、貴方は何をしているの?」

いつもなら余り変わらない彼の目線が今日は大分上にある。脚立の上にいるからだ。

「見てわからないのか、掃除だ。」

「脚怪我してるのに何を言う。下りなさい」

前回の壁外遠征で脚を負傷したリヴァイは、当然訓練には参加できない。大抵見学をしているのだが、全体演習ではなく個々の訓練となるとふらっといなくなる。夕食の時間になっても戻ってこなかったので皆で探していたら脚立なんて不安定な物の上に乗っていた。

「ずっと座っていたら身体が鈍る」

「脚に負荷をかけないメニューはこなしているでしょ。怪我してるのにそんな不安定な物の上に乗るなって言ってるの」

何かしていないと落ち着かない、というのはわかる。信頼していた部下を4人もいっぺんに失い、怪我をし戦力外になって、周囲にはいつも通り接していたけれど相当落ち込んでいるようだった。

「もう夕食の時間だし。みんなも探してたよ」

「そうか」

この『探してたみんな』にもう彼等は含まれてない。
先行くね、と伝えて扉の方へ方向転換したのだが、ガタッと不穏な音がしてもう一度振り替えるとリヴァイが降ってきた。
声を出す暇もなく取り敢えず受け止めたのだが、なんせ唐突に、自分より重量がある人が降ってきたのだ、受身も満足に取れず派手に倒れこんだ。

「ったー…」

仰向けに受け止めたので私は後頭部をしたたか打ち付けた。結構痛い。

「なんか凄い音しましたけど大丈夫で、す、」

顎を仰け反り扉のほうを見るとエレンが逆さに映った。何故か固まってしまっていて、弾かれたように失礼しました!と叫ぶと彼は扉を勢いよく閉めた。

顔は痛みで歪んでいただろうし、リヴァイの顔は私の横にある。
極めつけはリヴァイの掌が私の胸の上に、

「どこ触ってんだ早くどけろこの変態野郎!しかもなんかあらぬ誤解されたし絶対!」

「耳元でうるせぇ。事故だ。でもないとお前のあるかないかわからん胸なんか触るか」

「訓練の時は邪魔だから抑えてるだけでちゃんとあるわ失礼な!」

そのあとも二人で、脚を怪我してるのにあんなとこ登るから、一人なら受身ぐらいとれる、下手糞な受身のせいで額を打った、等とギャーギャー喚いて食堂に入って後悔した。忘れてた。
新兵であるエレンは先輩に訳を話さなければいけなかったのだろう。
好奇心に溢れた居心地の悪い視線の中少し冷めてしまったスープを飲みながら、リヴァイが居ない場所で来るであろう質問の嵐に頭を抱えた。
 

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