dream/short ブック

□言葉までは要らない
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あー、

そういうしかないよね。
彼氏と他の女のキスシーンに出くわしたら。
リヴァイの身長があと10センチ高かったらなんて初めて思った。そしたら彼女は届かなかったろうに。
幸いなのはリヴァイからではなく女の子のほうからの完全なる不意打ちで、リヴァイが即座にその子を突き飛ばしてたことだろうか。リヴァイにはそういう気はなかったんだと思う行動。
でもね、あー、ってなるんですよ。
たかだか粘膜同士が一瞬掠っただけだと理屈を捏ねてみても、予想以上に嫌で悶々としてる。

告白して振られた女の子は、不意打ちでキスをしておもいっきり拒絶されたのが効いたんだろう、そのまま何も言わずに去っていってしまった。
このまま私も何も見なかったふりをして…いつもどうり接すれば。

だが事態はそうスムーズには動いてくれなかった。
その場でリヴァイが地面に膝をつき、いきなり吐き出したからだ。

「ちょ…大丈夫!?」

「…てめ、」

ああ、タイミング的に飛び出すのは最悪だったか。これじゃ覗き見してましたって言ってるようなものだ。

「気分悪かったりしない?医務室行く?」

四つん這いになって口から胃の中のものを苦しそうに逆流させている彼の背中をさする。
あらかた吐き終えたらしい彼が水を求めたので、リヴァイの腰についてるのを取ってあげようとしたら空だと言われてしまった。嫌な予感がする。
とりあえず、私の水筒を差し出しておく。
口の中を濯ぎまわりを洗い流し、帰ってきた私の水筒も空になってしまった。

「……見てたか」

「告白のあたりからかな」

いきなり吐き出したから万が一くも膜下出血とかだったら危ないと思ったのだが、『万が一』の低い確率は外れてしまった。
ぐい、とハンカチで口の周りを必要以上に強く拭う様子から、キスされたことによる嫌悪感からの嘔吐だろう。たぶん水筒の水が空ですぐ口を濯げなかったのも理由の一つ。潔癖症とは難儀なものだ。
あの女の子の前でこうならなかったのは双方にとって唯一の幸いだったかもしれない。

「…俺の不注意だ。怒るなり、詰るなり、好きにする権利がお前にはある」

怒る?詰る?
そんなことより。

「…哀しくて、怖かった」

貴方に振られるかもという恐怖。その先の孤独を想像したら。
束縛するのもされるのも嫌なのは、自由意志の中で私だけを見ていて欲しいというただの我侭だ。

申し訳なさそうな顔というレアな表情。
強く擦って少し赤くなっている唇をそっと指でなぞると、手首を掴まれて掌にそれを押し当てられた。
離されて、何か言おうとするのをわざと邪魔する。

「もういいよ」

それで、十分だ。
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