dream/short ブック

□今現在の幸福模様
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リヴァイと付き合うようになったことを友人に話すと、おめでとう、の次に言われた言葉は「大丈夫なの?」だった。
兵団内で付き合う者は無数にいる。しかし4年で9割が死亡、重傷者の率はもっと割合が高い。この調査兵団という組織に置いての男女交際はあまり未来は明るいとは言えない。
そして友人の言葉には別の可能性も含まれていた。
精神的に追い詰められてしまった場合だ。
時期も悪かった。つい最近、ある兵士が錯乱して一緒にいた恋人を傷つけてしまったという報告があり、調査兵団内の空気が緊張していたからだ。
それは誰しもなる可能性があるからで、特に長く生き残っていればいるほど、見えない傷は増えていく。時限爆弾を抱えているようなものだ。
リヴァイの人外的な強さは勿論友人も知っていて、だからこそ心配なのだろう。

もし万が一あの兵長があんなことになったら、
貴女が死んでしまうかもしれないのよ

私が悟っていることを見透かした友人の言葉に、リヴァイは大丈夫、私が止めてみせる、なんて無責任なことを口には出せなくて、それでも何か言おうと言葉を探していると、なんとも悪いタイミングでリヴァイが現れた。
誰もいないからと言って食堂という共同空間でこんな話するんじゃなかった。どこから聞いていたんだろう。
友人は静かに身体を強張らせ、そして横を通り過ぎた彼を一瞬睨みつけた。
私のことを真剣に考えてくれる、いい友人を持ったと思う。
だけど。


「ねぇ、昼間の食堂での話もしかして聞いてた?」

あの後。訓練や業務もリヴァイは通常通りにこなしていた。あまりにもいつもどおり過ぎて、何も聞いていなかったんじゃないかと少し期待していたのだが。

「『兵長が前報告にあった奴のようになったらイレーネが死ぬかもしれない』」

やはり聞かれてしまっていた。
ということは、私が、その言葉に何も反論できなかったことを彼は知っている。

「……彼女に、悪気は、なくて」

「知ってる」

友人の弁明をしている場合ではないのに。
考えても考えても纏まらない答えが今急に出るわけはない。
お茶を飲んでいたカップを置いて、リヴァイが私の手首を握った。
彼がその気になれば、私の手首を握り潰すことなんて簡単なのだろう。

「リヴァイ、痛い」

「怖いなら別れてもいい」

一瞬、更に力が込められて、骨がミシリと軋んだ気がした。離されると、彼の手形がくっきりと赤く私の手首についていた。

「怖くなんてない。」

何を話しても核心をつけないような気がしてならない。

「私にはリヴァイといる今が一番幸せで…不幸な未来を想定できないくらい。こんな年齢で、何かあった時のことをほとんど考えずに生きてるっていうのは良くないってわかってるんだけど」

可能性の話をしだしたらキリがない。まして調査兵団ではなおさら、いくらでも悲劇的な未来への道が口をあけて待っている。

「何があるかわからないからこそ、哀しいことを想像してる暇があったら幸せに満たされてたいなって」

「随分と呑気な楽天家だな」

「…だよね」

「最悪の事態なんてそんなこと俺がいくらでも考えておいてやる。だからお前は…幸せとやらだけ味わっとけ」

それは最大限に私を甘やかす言葉。
その上リヴァイが追い討ちのように、俺も今が一番幸せだと思っている、なんて言うから、私は思わず泣きそうになってしまった。



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企画【幸福論】様提出作品

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