dream/short ブック

□今更な不意討ち
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「そういや、イレーネと兵長って付き合ってどれくらいだ?」

陣形の調整を各班長や分隊長が話し合っているあいだ、待機しているリヴァイ班のテーブルに混ざった。リヴァイは勿論調整のほうへ行っている。
丁度一つの話題の区切りだったらしい。エルドが唐突に振った疑問に、イレーネは指を折って数え始めた。

「2年…とちょっと?改めて考えると結構長いなぁ」

「え、お二人って付き合ってたんですか?」

「え?知らなかった?」

「確かに誰かから教えられたりデートしてるとこ目撃でもしないとわからんかもな」

「そりゃ公私は分けるわよ」

「いや、分け方が二人とも完璧すぎる。知らなかったらさっぱりわからん」

「俺達だってあのことがなかったらまだ知らなかったかもしれないしな」

「あのこと?」

「あー…エレンの入隊前にね、」

ちらりとイレーネを見るリヴァイ班。だがイレーネはしれっと何事もなかったかのように言った。

「ちょーっとしつこい男に言い寄られてね。リヴァイと付き合って…半年?だかそれぐらいの時だったかな。兵団内で私達が付き合ってること誰も知らなかったし」


話によると、そのしつこい男は休日の朝食後、同期で顔見知り、遠慮もありやんわりと誘いを断り続けたイレーネに対し痺れを切らした。といっても、共同の食堂での出来事なので腕を掴んで「待ってくれ」とイレーネに懇願したぐらいで、イレーネもこれを機にきっぱりと断るつもりであったが、その前にたまたま同時間帯に朝食を取っていたリヴァイがその男の腕を名前から離させた。

「やめろ」

意外な人物にその男は少したじろぐも、「あんたに関係あるんですか」と強気だ。

「関係ならある。イレーネは俺と付き合っている」

行くぞ、と手を引かれ食堂を後にする二人を唖然と見送る男と、朝食を取っていた他の兵士達。


「俺その場にいたわ。よく覚えてる」

「休日の朝の食堂なんて半分も埋まってないのに翌日には兵団中に知れ渡ってたな」

「私が騒ぎ立てたくないってことを知ってたからそれまでリヴァイも黙ってたのよね。っていうか付き合ってることがまさかあんなことで知れ渡ることになろうとは思ってもなかったわ」

「いや、でもあの後も凄かったしなぁ」

「あの時同じ班だったんだが、合同訓練の対人格闘でボロボロにされてたしな」

「男子宿舎の入り口付近にあるベンチに座っててさぁ、自由時間にそいつが外に出ようとしたら『どこへ行く?』って。すっげぇ威圧感で」

「聞いたことあったけどそれ本当だったんだ!私が聞いたのはその男が駐屯兵団に異動したのに兵長が一枚噛んでるって噂なんだけど」

「さすがに人事権はないだろう…でもすれ違うたび睨まれてるの見かけたし、居辛くなって自主的に、じゃないか?」

「いやなんかすっごいですね…イレーネさん?」

視線を誰にも合わさず逸らし、口元を手で覆うイレーネ。その顔は心なしか赤い。

「そんなこと今初めて聞いたんだけど」

「うそ…ほんとに?」

頷くイレーネに、リヴァイ班の面々はそれぞれ顔を見合わせる。あれ、これもしかして言っちゃいけなかったのでは?と。

「陣形の調整が終わった。俺達の位置は変わらないが他も一応目を通しておけ」

なんとも心臓に悪いタイミングで現れたリヴァイに、班員達は体を強張らせ、ぎこちなく変更点が書かれた紙を受け取った。

「…イレーネ?顔が赤いが」

どうした、と額に伸ばしてきた手を自然に避ける。

「なんでもない。…自分の班のとこ戻るわ」

顔も合わせず手だけをひらひらと振ったイレーネの背中に、体調悪いなら無理するなよとだけ声が掛った。

(…うーわ)
1年以上前のことだけれども、思わずにやけそうになってしまった頬を、イレーネはぱちんと両手で叩いた。



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