dream/short ブック

□雨の日の邂逅
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会うだけでいいから、と上官に拝み倒されてお見合いをすることになった。ということをリヴァイに伝えた。

「だから次の休み内地に行ってくる」

「……」

「…なにか言いたいこととかないの」

「……好きにすればいい」

「…そ」

そう言うんだったらその不機嫌な声どうにかしなさいよ。まだあからさまに怒ったりするほうがマシ。私だって、行きたくて行くわけではないのに。
建物から出ると雨が降っていたが、リヴァイに傘を借りに戻るのは癪なのでそのまま外へ出た。


見合いまでの日々が、また良くなかった。親しい数人から「喧嘩したのか?」と聞かれるぐらいには。
もっと…本来は些細な問題だったはずだ。例えば、私が「本当は行きたくないんだけど」とはじめに言えば。でも、何も言わないリヴァイに少し苛ついたことも事実。そして私とはその程度の関係だったの、と少し落ちこんで見栄を張った。


そんな重々しい気持ちを引き摺りつつ、ついにお見合いの日はやってきてしまった。好きな人のためでもないのにお洒落な服を着た自分が道化にしかみえない。
内地にある小綺麗なレストランで待ち合わせた相手は憲兵で、そしてどこかのお偉いさんのご子息だそうだ。だから断れなかったらしい。釣書なんか上官に広げられて見せられたときにちらりと写真を見ただけだったので知らなかった。

「貴女が内地に来られたときにお会いしまして…覚えておられないかとは思うのですが」

そのときから気になっていました、と少しはにかみながら話す彼からは、穏やかそうな人柄が窺える。平和で不自由ない生活をおくっているからだろうか。殺伐とした生活をしている私でなくても、思わず和んでしまうような。


2時間程お話をして、外に出ると雨が降り出した。雲の厚さからにわか雨ではなく、これから雨足が強まって夜まで続くことが予測できる。
彼もわかったのだろう、送りますよと言ってくれたが、丁重にお断りをして別れた。
ウォール・シーナから調査兵団宿舎へ向かおうとしたが、雨足が予想以上に強まってしまい、そこから乗る予定の船が出なくなってしまった。
傘はなかったが、今まで歩いてきただけで大分濡れてしまったしいいかとずぶ濡れになりながら宿を探す。明日一番に帰って説明すれば上官もわかってくれるだろう。人通りはもうほとんどない。記憶にある宿が満室だったら風邪覚悟で歩いて帰ろうかと思案し始めて、前方に見えた人影にドキリと心臓がはねた。

「なんでいるの」

「今日見合いとやらだったんだろう。相手と一緒じゃないのか」

答えないくせに問われたことに若干苛っとする。

「…そうよ。人がよさそうで、穏やかな感じの良い人だった」

「よかったな」

「でもお断りするつもり。そんな素敵な人と話してても、私の頭にあったのは、行って欲しくないとも素直に言えないような人だったから」

「……」

「『よかったな』って言わないの?」

「よかったのか?」

「いいって言ってるじゃない」

「…そうか」

すでに濡れている私に差し出された傘の中に遠慮なく入った。




私信:莱閑様→
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