dream/series ブック

□開室準備
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通常日が落ちるまで行われる訓練だが、まだ陽も高い午後にリヴァイはエルヴィンに呼び出された。
しかし、呼び出された執務室の前でノックをするも中から返事はない。

「エルヴィン、俺だ、入るぞ」

そういって扉を開けるも中はもぬけの殻で、かわりに机の上に紙が2枚置かれていた。

“急用ができたので内地へ行ってくる。
君は女子宿舎イレーネ・シュミットの部屋向かえ。
詳細は彼女が説明してくれる”

そう走り書きで書かれたメモと、もう1枚は女子宿舎への立入許可証だった。



普段ほとんど入ることの無い女子宿舎だが、建物はそう変わらない。
指定された部屋をノックすると中から「開けてどうぞー」と返事があった。
開いて、目の前に広がった光景は凄まじい本や紙の束。
天井までの本棚が壁一面あり、本がみっちりと詰まっている。それ以外に入りきらなかったのか、机、椅子、布が敷かれた床の上などあちらこちらに本が積まれていて凄まじい。
そのほぼ中心にいる1人の女が敬礼と挨拶をした。

「イレーネ・シュミットです。本日はよろしくお願い致します」

「エルヴィンにお前に話を聞けと言われてきたんだが…何だこの汚部屋は」

「汚部屋じゃないですよ!汚れてはいません。ちょっと埃っぽいですけど…」

「散らかってて汚ねぇ」

「本棚に入っていないのは引っ張り出してきた分です。本日団長にお願いしたのは部屋移動のための人員を貸して欲しいということだったんですが…2人か、ちょっと大変だな」

ただの部屋移動なら同性の友人が休日にでも付き合って行うものだが、わざわざ異性で階級付きの人間を呼んだとことはおそらく前例はない。
そしてすぐ横に積まれている紙の束、おそらく論文のタイトルを見てピンときた。

「『王制崩壊』…発禁ものか」

「発禁というより発表もさせてもらえなかった論文ですね」

「ここはそんなんばっかか」

「そんなことはないですよ。一番多いのは兵法や軍事論に関してです。
それは趣味の範囲なので、別に王制崩壊を望んでるとかそんなわけではないのでご安心を」

「さっき移動といってたが」

「この本や資料は、まぁ全部趣味なんですけど通常なら兵をやめなきゃいけないぐらいやばいものもあるんですよ。
でも団長が「勿体ないから調査兵団で運用しよう」って言ってくださって。
部屋も広い部屋に変更となったんですが何しろ運ぶ物が物ですから…団長に信頼できる者を手配するよと言われたのですがまさか1人とは…」

「この惨状をエルヴィンも見たんじゃないのか」

「惨状って言わないでくださいよ!
棚に入ってたのはご覧になられましたけど、奥の戸棚にぎっちり詰まってたのとせっかくならと生家からちょっとずつ運んできたのを合わせて増えました」

「……概要はわかった。とりあえずはじめるぞ」

あらかじめ用意されていた2台の台車に積んでいく。
1番多いという軍関係のものは取り出しやすい位置に収納する為後から運ぶそうだ。
なので他の物から台車に積んでいたのだが。

「兵長!そっちの台車にある『世界地図帳』、第三版が混ざってます!」

「その論文、タイトルは『馬の生態学』ですけど、内容はほとんど軍用馬のことについてなので後回しでいいです」

分類方法は調査兵団にある資料室とほぼ同じようだが、ピンポイントで必要な資料を探しに行くぐらいしか資料室へ行かないリヴァイはそんなことは知らないし、また独自の分け方をしている部分がありややこしかった。

「しかし…よくこれだけ集めたものだな」

何往復もしたが終わる気配は無い。明日人員を増やして続きをやることになるだろうなとリヴァイがうんざりしたような声を吐き出す。

「父が学者だったので、そのツテで色々と。」

「調査兵団に入るより、学者になったほうがよかったんじゃないのか」

「私の父は憲兵に捕まりました。今でも牢にいます」

リヴァイの手は一瞬止まったが、イレーネの手は黙々と動いたままだ。

「危険思想による……とかなんとか。不法所持もありますね。
私は訓練兵団卒業間近だったので事前調査ではねられるとかはなかったですけど、憲兵団に志望だったとしたら入れなかったでしょうね」

抱えた本を台車に積んで、少し休憩しましょうかとイレーネが言った。
本以外の私物は最後に運ぶということで、まだ手付かずの食器棚からポット、カップを取り出し、湯を沸かす。

「父の所持していた資料類は勿論憲兵に没収されたのですが、家の隠し部屋には気づかなかったようで、半分以上残ってたんです。
調査兵団に入って、個人部屋になってから入る分だけちょっとずつ移してました。
前団長にはばれなかったんですが、エルヴィン団長にはばれてしまいまして。私も捕まるのかなぁなんて思ってたんですが運用させると言われて驚きました」

「有用なものが開けた口に飛び込んでくるのに叩き落とす必要はないからな」

「無知は罪だって言いますよね。
無知、というより無知であることに疑問も持たない人に腹を立てて言われた言葉のような気もしますが…私はそれ以上に、無知を強いることのほうが大罪だと思っています」

話をしている間に沸いた湯で淹れられた茶をリヴァイに差し出して、名前はにっこりと笑った。

「何か気になった物があったらお貸ししますので言ってくださいね」

「……あったらな」

正直、整理しながら内容を気にする余裕はないので、借りるならもう少し先だろうなとリヴァイは思った。
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