三日月

□今とこれから
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「雨、止まないなぁ…」
「ふふっ、俺は別にそれでもいいと思うけどなぁ〜」
「もう和泉ったら・・・」

本当に和泉はいつも自由奔放ていうか気儘というか・・・そんなことを降り止まない雨を眺めながら考える。


「元はといえば和泉が急にお忍びで出掛けたいなんて言い出すからこんなことになってるんだよ」
「えーっ、だって今朝起きたときにさぴーんときたんだもん。今日は式神ちゃんと出掛けよう!!って」
「なら、せめてライコウさんに一言言えばよかったのに・・・何も言わないで来ちゃったしきっと今頃ライコウさん心配してるよ?」

きっとではなく間違いなく顔を真っ青にして血眼になって和泉を探していることだろう。

「だって言ったら絶対自分も着いていくって言い出しそうじゃないか」
「当たり前でしょ。そんな今上帝を一人でなんて出歩かせられないんだから」


そう、朝起きたら和泉が私の所へやって来た。「今日は俺と出掛けよう」なんて言い出しかと思ったら二人っきりがいいからと書き置きだけを残して出てきてしまった。
あの時私がもっと強く言わなきゃダメだったんだよね・・・
やっぱり私は和泉に甘いのかなと思わずにはいられなかった。

「はぁ・・・帰ったらライコウさんに謝らなくちゃ」
「大丈夫だよ、その時は俺も一緒だからさ♪」
「もう・・・・・・」

もう一度空を見上げてみた。だけど、やっぱりまだ雨は止みそうにない。

「大体和泉はもう今上帝なんだよ?即位してやっと落ち着いてきたからってどこで誰に狙われてるかわからないんだからもっと慎重に・・・・「だって、俺は少しの時間でも君の傍にいたいんだよ」

どきっ・・とした。
空を見上げた視線をそのまま和泉の方を向けば真剣な眼差しをした深緑の瞳とかち合った。

「いず・・・・」
「俺が即位してもう一月、引き継ぎも終わって政もやっとうまく動き出してきたけど、きっとこれからもっと忙しくなる。そしたら君と一緒にいられる時間もなくなっていってしまう・・・そんなのは俺には耐えられないよ」
「・・・・・・・・」

(私だってそうだよ・・・本当はもっと和泉と一緒にいたい、もっとお話したいし・・・・和泉にもっと触れていたい)

けど、それは私の我が儘でただでさえ私と和泉は身分だって違くてそれどころか私は人ですらない。
だからそんなことで和泉を困らせるような真似はしたくなかった。

「だからさ、俺は今こうして君といられる時間を大切にしたいんだ。でもこれは俺の我が儘みたいなものだからそう思っているのは俺だけかもしれないけど」
「・・・・・とない・・」
「式神ちゃん?」
「私も本当は和泉ともっと一緒にいたい、だけど私のことで忙しい和泉の邪魔をして困らせたくないからってずっと
自分に言い聞かせていたんだと思う。だって・・・これは私の我が儘だから」
「・・・そっか、俺たちおんなじだったんだね」

和泉が私の頭を引き寄せれば自然と私は和泉によりかかる形になる。

「ねぇ、彩雪。俺にはずっと君の傍にいるなんて言えないけれど、でもこれから先もずっと君と一緒にいたいと思ってる。だからさ・・・・俺に君のこれからの時間全部くれないかな?」

・・・涙が・・・・・出そうだった。
和泉も同じことを考えていたことも嬉しかったけど、和泉が私とのこれからもちゃんと考えてくれていることが本当に本当に嬉しかった。
だから、私は悩むこともなく返事の代わりにと触れていた和泉の手を優しく握った。
それに応えるように和泉も手を握り返してくれた。


「雨・・・止んだね」
「あっ・・・・本当だ」

いつの間にか雨は止み重苦しい雲の間からいくつもの陽の光が差していた。

「帰ろっか、彩雪」
「うん!!!」


雨でできた水溜まりに陽が差してキラキラと輝いていた。
それはまるで私たちの未来を示してくれているみたいで、私と和泉は二人寄り添って手を繋ぎながら二人のこれからに向かって歩き出した。

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