三日月

□ここが帰る場所だから
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あの黄泉の事件からもう半年。
未だに晴明様は黄泉から漏れ出した大怨を退治する旅に出たっきり戻ってこない。
時々晴明様の式神が文の代わりにと飛んでくるから元気にはやってるんだと思う。

だから、今も屋敷には私と壱号くんの二人きり。
だけどそんな静かなお屋敷では最近新しい居候さんができたのだ。


「壱号く―ん、様子はどう?」
「うわっ!!い、いきなり入ってくるなよな。びっくりするだろう!!」
「ご、ごめんね。まさかそんなに集中してたなんて思わなかったから」

そうしてまたぶつぶつといいながらも壱号くんは自分の手元に視線を戻した。
私も近づいて後ろからそこを覗き込む。

「どう?怪我の具合は?」
「あぁ、だいぶ良くなった。これなら2、3日でまた飛べるようになると思うぞ」
「本当に!!?よかった〜、ねっ。よかったね♪」

私は壱号くんの手元に声をかける。
そこにはまだ小さな鳥の雛がぴぃと嬉しそうに鳴いていた。

そう、少し前に屋敷の庭で怪我をしていたこの子を見つけて手当てをしてあげたのが始まり。
まだ雛だしこのまま返したらすぐに他の動物に襲われてしまうだろうてことで怪我が治るまでお屋敷でお世話をしてあげようということになったのだ。

最初は壱号くんには反対されるかと思った。だけど、意外にも壱号くんは大して反対もせずむしろ世話をすることにたいして驚くほど積極的だった。

だけど、きっと壱号くんなりにその小さな雛に思うところがあったんだと思う。
(黄色の小鳥さんなんてちょっと弐号くんみたいだなぁって私が思ったくらいだもんね)

未だに戻ってこない弐号くんを一番待っているのは壱号くんだから。
だから、きっとこの小鳥さんに弐号くんを重ねたんだと思う。・・・思うんだけど・・。

「まったく、このくらいの怪我で鳴いているようじゃお前この先生きていけないぞ。蹴鞠。」
「いくらなんでもその名前はないと思うんだよね・・・」
そう。壱号くんは怪我が治るまでここにいるのだから何か名前をつけてあげようってなった時に少し考えてから「こいつ蹴りやすそうだから蹴鞠にするぞ」なんて言い出したのだ。

壱号くんはこう見えて頑固だから一度決めた名前を撤回することなんてしなかった。


「でも本当によかったね。怪我もそこまで酷くなかったからかな?」
「あぁ、それもあるかもな。けど、一番はこいつの気持ちの問題なんじゃないか・・・こいつ、あいつにそっくりだからしぶとそうだしな」
「あっ・・・・うん・・そうだね。」

まさかはっきり言ってくれるとは思わなかったから少し驚いた。
同時に私の中でも寂しい気持ちが込み上げてくる。
すると、壱号くんが私のおでこを指で弾いた。

「いった―い!!ちょ、壱号くん!!なにするのさ!?」
「お前が変に黙るのが悪いんだろう。なに勝手に落ち込んでるんだよ」
「べ、別に落ち込んでなんかないもん・・・」
「はぁ、まったく・・・・・大丈夫だ」
「えっ・・・?」
「あいつは絶対に俺たちのところに戻ってくる。僕にはわかる。」
「壱号くん・・・」
「だから、いつあいつが戻ってきてもいいように僕たちはあいつの帰る場所として待ってればいいんだ」
「壱号くん・・・・うん、そうだよね。待っててあげよう!!私弐号くんのこと信じてる」
「それはそれでなんか複雑っていうか・・・というか弐号のことは信じられて何で僕のことは信じないんだよ・・・ブツブツ・・」
「壱号くん何か言った?」
「べ、別になんでもない!!」
「・・?・・そう?あっ!!そうだ!!この子の餌切らしてたから買ってこなくちゃ!!」
「今から行くのかよ?」
「うん。だってお腹が空いてたら可哀想そうだもん。ねぇ―?」

私の問いにその通りだと言わんばかりに蹴鞠は鳴き返した。

「ふふっ♪そういうことだからちょっと行ってくるね」
「待てっ。僕も行く」
「えっ?いいよ、餌を買うだけだし壱号くんに持ってもらうような荷物なんてないし」
「お前は僕を単なる荷物持ちと思っているのかよ」
「うーんと、それは〜・・その〜・・・あははっ」
「あはは、じゃない!!とにかく僕も行く」
「本当に大丈夫だよ?それにわざわざ来てもらうのも悪いし・・・」
「〜〜〜〜〜!!あぁ、もうっ!!鈍いやつだな!!僕がお前と一緒に出かけたいから着いて行くって言ってるんだよ!!」
「えっ?」

呆けた声が出た、驚いて壱号くんを見たら壱号くんは赤くなった顔を手で覆って隠していた。

「僕はお前とはいつも一緒にいたいって思ってるんだ。屋敷の中だけじゃなく外でも何処に行くにも・・・」
「壱号くん・・・」
「ほ、ほらっ!!さっさと行くぞ!!」
「あっ!!ちょっと待ってよ、壱号くん!!!!」

足早に屋敷の入り口に向かう彼の後を追いかけながら帰りはちょっとだけ遠回りをして帰ろうと思った。

(弐号くん。私たちずっと待ってるからね、二人でここで、ずっと・・・・)

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