満月

□氷詩10
1ページ/4ページ



   五幕 心の在り方





カツ、カツ、と廊下に響く規則正しい靴音。
人型をとったソウルセイバードラゴンは目的の部屋を目指して廊下を進み上へと昇る階段を上がっていた。
やがてその部屋に辿り着き中にいる人が反応を示さないであろうとわかってはいたが、きっちりと部屋のドアをノックした。
だが、しばらく待ってみてもやはり中から返事は返ってこない。
ソウルセイバーは1つ息をつくと返事を待たずに部屋の中へと入った。



そこはこの城の最上部にあるレンの部屋だった、部屋の主はいないはずだが部屋の中にはレンのベッドに突っ伏しているアイチがいた。
アイチはソウルセイバーが部屋に入ってきても全く動こうとしない。気づいていはいるのだろうが、今はその反応さえできないのだろう。
ソウルセイバーはアイチへと近寄りその後ろに立った。
「アイチ。こんな所でただ泣いていても事態が良くなるわけではありませんよ」
「........」
アイチはなにも喋らない。
ソウルセイバーはそれでも話を続けた。
「今ブラスターブレード、オーバーロードの指揮の下明後日にやってくるレンさんたちシャドウパラディンの軍勢に対抗するための本格的な軍の作成が行われています。櫂さんも容態次第では戦場にでるそうです。いずれにせよ昨日のような小規模なものではなく、もっと大きな戦になることは確実でしょう」
ソウルセイバーは淡々とした様子で話を続ける、アイチはまだ一度も反応を示していない。
「レンさんは完全に“影”に取り込まれてしまった。...一度闇に落ちたものは二度と元には戻らない。これがなにを意味するのかあなたはもうわかっていますね」
「.....」
「オーバーロードは次の戦でレンさんを自らの手で殺めることを決めたそうです。それが親として自分がやらねばならないことなのだと...」
「..っ....」

アイチはレンと殺すという言葉に反応した。
そして、ベッドに伏せていた顔を上げゆっくりと背後へ振り返った。
目はたくさん泣いてしまったために真っ赤になり、顔もやつれていた。

「レンさんも本気でこの場所をそしてあなたを狙って来るでしょう。その時はあなたはどこかに隠れて.......」
「...どうして......レンだったんでしょう......」
ソウルセイバーの言葉を遮ってアイチは重々しく口を開いた。
「なんでレンが.....どうして.........どうして............」
「......」
一度泣き止んだもののアイチは再び涙を流していた。
それはまるで止まることを知らない澄んだ清流のようだった。
ソウルセイバーはそんなアイチの様子をしばらく黙って見つめていた。が、やがてゆっくりと話し出した。
「我らロイヤルパラディンは古来よりずっとシャドウパラディンたちに支えられ同時に守られてきました。彼らがいなければ私たちの歴史はとうの昔に終わっていたことでしょう」
突然のソウルセイバーの話にアイチは一体なんの話をしているのかわからなかった。
ソウルセイバーは続ける。
「私たちは彼らに恩がある。それは今まで機会もなくただただ過ぎてしまっていましたが私は今がそれを返す時なのではないかと考えます。」
「..恩を......返..す.......?」
「...アイチ。レンさんを救いたいですか?」
その言葉にアイチは勢い良くソウルセイバーに向き直った。
「!!!!?も、もちろんです!!!!私にできることがあるならなんでもやります!!!!」
「そうですか...」
ソウルセイバーは目を伏せる。だが、その顔はどこか思い詰めたような苦しげなものだった。
「お母...様.....?」
「.......アイチ。」
ソウルセイバーは伏せていた目を開きその目をアイチのそれと合わせる。
少しの間を空け、ソウルセイバーはアイチへとその話を切り出した。
「あなたはレンさんを...愛しい人を救うためにこの世界に、惑星クレイにその身を捧げる覚悟がありますか?」
「..えっ....?」
アイチはソウルセイバーから視線を外すことなくその場に固まった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ