満月

□氷詩11
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 六幕 それぞれの戦いへ




前回のレンとの戦いから3日目の朝。静かなクラウン・キャッスルはさらに静寂を纏っていた。
城門前にはこれから戦いへ向かう大勢の騎士たちが武器の手入れや陣形の確認などの出発前の最後のチェックを行っていた。
その集団から少し離れた場所では櫂が壁に寄りかかり一人精神を落ち着かせていた。
そんな櫂の元へ誰かが近づいていく。
櫂は横目でその人物を確認し驚きで目を開いた。
騎士たちの間を抜けこちらへ来るのは本来ここにいるはずのないアイチだった。櫂はアイチに近寄った。
「アイチ、こんなところで何をしている。俺たちはもうすぐ........」
「うん、わかってる。だから見送りだけ来たんだ」
「そうか....」
二人の間に沈黙が降りる。居心地が悪いわけではないが、話をしようにも何を言えばいいのか櫂はわからなかった。
しばらくしてアイチが話を切り出した。
「櫂くん。お願いだから無茶だけはしないでね。これだけ私と約束して」
「だが、俺は.....」
「無理なお願いだってこともわかってる。だけど、どうしてもこれだけは約束してほしいの」
いつになく強情なアイチに櫂は若干気圧された。アイチの瞳には揺らぐことのない強い意思が宿っている気がした。
「....わかった、お前がそこまで言うのなら。できる限り守ると約束する」
「..うん。ありがとう、櫂くん」
アイチは櫂に優しく微笑みかけた。だが、その笑顔はどこか儚げで今にも消えてしまいそうだった。
櫂は昨日の夜と同じような気持ちになった。
「アイ.....」
「アイチ様。そろそろお時間です、祈りの間でソウルセイバードラゴン様がお待ちです。」
櫂がかけた声はアイチを呼びに来たブラスターブレードの
声でかき消された。その後ろにはブロンドエイゼルもいたた。
「わかった。それじゃあ、櫂くん気をつけて。」
「あぁ...、お前もな」
アイチは櫂に背を向け迎えに来たブラスターブレードたちの間を通って城へ戻っていくが、少ししてアイチは立ち止まった。
「櫂くん....」
「なんだ?」
アイチがかけてきた声に櫂は答えた。それからほんの少しの間を置いてアイチはくるっと櫂を振り返った。
「レンねあの時櫂くんのこと嫌いだったって言ってたけどそんなことないよ。レンも櫂くんのことが本当は好きだってこと私知ってるもん。だからね.....レンのことずっとよろしくね。」
櫂は一瞬驚いて反応に遅れたがすぐに真面目な顔になり頷いた。
「あぁ、レンのことは俺に任せろ」
その言葉に満足したのかアイチは一度ニコッと笑いかけるとそのままブラスターブレードたちを従えて城へと戻っていった。
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