満月

□氷詩14
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  九幕 戦いのその後に













城の一室ではブロンドエイゼルが集められた報告用の資料を見て頭を悩ませていた。
その隣には人型のオーバーロードもいる。
「最早治療の必要な怪我人も少なくなってきたようです。これならばあとは各国との情報の統制と治安の安定化をしていくだけですみそうです」
「戦場に出ていたものたちの怪我はあの時の光が全て癒したからな。もしかしたらあれはこうなることも全て見越していたのかもしれんな」
「そう..ですな...」
すると、部屋の外がざわめいていることに気づいた。しばらくすると部屋の扉がバンッと力強く開け放たれ息をきらしたレンがそこに立っていた。その後ろには後を追いかけて来たのであろう同じくらい息をきらしている櫂がいた。
「おぉ、やっと目を覚ましたか。全く“影”に取り込まれたからといって何日も寝込むなど軟弱な.....」
「..チはどこですか..」
「ん?」
震えた小さなレンの声をオーバーロードが聞き返すとレンは顔を上げオーバーロードを睨み付けた。

「アイチはどこにいるんですか!!!!!!」


レンの言葉にエイゼルは息を飲む。オーバーロードは落ち着き払った様子でレンを見ていた。
「レン様..姫様は....」
「アイチはどこなんですか!!!!アイチは..アイチは....!!!」
「落ち着け、レン。目を覚ましたばかりの病み上がりで無理をするな」
櫂がレンを制するようにその肩に手を置いたがレンはそれを振り払った。
「姫巫女ならば消えた。もうこの世界のどこにもいはしない」
興奮したレンにオーバーロードは真実を語り出す。それを聞いたレンはオーバーロードに向き直り鋭い眼光で正面から睨み付けた。
「消えた....?どういうことですか」
「姫巫女はこの世界の全ての闇を浄化するべくこの世界にその身を捧げた。彼の者の浄化の光はクレイ全土に届けられ全てはあるべき姿へと還った。“影”に取り込まれた主が今そうして生きて立っていられるのも姫巫女のお陰というわけだ。」
「....嘘だ....アイチが..死んだ...?」
「正確には死んだのではなく世界の何処かで祈りを捧げ続ける眠りについたというのが正しいな。まぁ永久に覚めぬ眠りという点では似たようなものかもしれんがな」
レンは俯きオーバーロードの言葉の1つ1つを受け止め自身の中で反芻していた。だが、すぐに怒りの表情をあらわにしずかずかと歩み寄りオーバーロードへと掴みかかった。
「レン様!!」
「やめろ、レン!!!!」
エイゼルと櫂が二人に近寄ろうとしたが、オーバーロードが視線と手で二人を止めた。
オーバーロードは目の前で怒りの形相で自身を睨み付けてくるレンへと目を向けた。
「アイチはどこに行ったんです!!!!世界の何処かとはどこなんですか!!!!!!」
「それは我らでは知ることはできぬ。ロイヤルパラディンの巫女だけが知る世界の中枢、姫巫女が消えた今その場所も道行きも誰も知らぬ。まぁ最後にセイバーより何かを託されていたブラスターブレードならばもしや聞いていたやもしれぬがな」
「ならばその彼に聞けばいい!!!!ブラスターブレードはどこですか!!!!」
レンはさらにオーバーロードに掴みかかる手に力をこめた。そこへ横から見ていたエイゼルが恐々と答えた。
「恐れながら....ブラスターブレード様はもうこの城にはいらっしゃいません。戦が終息した後お一人で何処かへ姿を消されました。恐らくソウルセイバー様より託された務めを果たしに行かれたのかと......」
「.....そんな............」
レンの後ろから様子を窺っていた櫂はエイゼルの言葉に何故彼が一人で頭を悩ませていたのかを納得した。相談役であるソウルセイバードラゴンと姫巫女であるアイチが消え、更には騎士団長であるブラスターブレードがいなくなったとなれば実質ロイヤルパラディンを取りまとめるのは副団長であるブロンドエイゼルだけになる。
だが、エイゼル自身まだ完全に現状を受け入れているわけではなさそうだった。
それを聞いたレンは再び怒りの矛先をオーバーロードへと向けた。
「何故彼女にそんな真似をさせたのですか!!!!!あなたなら止めることもできたはずでしょう!!!!!」
「姫巫女には強い覚悟があった。世界のため、大切なもののため――それを蔑ろにし覆すことなど我にできようはずもない」
オーバーロードは至って冷静に答える。が、怒りで興奮しきったレンにとってはそれがますます刺激となった。
「違う!!あなたはただ見殺しにしただけだっ!!!!アイチも...ずっと慕い続けていたソウルセイバードラゴン様でさえも!!!!」
その言葉に僅かに反応するオーバーロード。激昂するレンはさらに言い放った。
「結局あなたは全てを彼女たちに投げ出し自分は逃げたに過ぎない!!!!世界の為だなどという愚かなことをさせてあなたは....!!!「黙れっ!!!!!」
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