満月

□氷詩9
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一方部屋を出たアイチとブラスターブレード、櫂と三和だったが、廊下ですぐに三和がアイチへ声をかけた。
「アイチ、お前大丈夫か?さっき寝てないって言ってたけどよ」
「...寝れないよ、三和くん..だって、レンが....レンが....」

アイチは両手を握りしめ泣き始めた。
その手には先程からずっと握られている紅い石の首飾りがあった。
「それは?」
「...レンが出掛ける前にお守りだって言ってくれたの...レン、すぐに戻るからって言って..なのに...」
「姫様.......」

隣に立つブラスターブレードも主の意気消沈した様子を憂い顔をしかめた。
「レンなら大丈夫だ。」
「...えっ...?」
泣いていたアイチは顔を上げ今の言葉を放った櫂を見た。
「あいつは普段こそふざけているが、決して弱くなどない。だからお前はなにも心配する必要はない」
「櫂くん....」

アイチを励ますための言葉、だけど櫂が言うと不思議とさっきまで落ち込んでいた気持ちが少し持ち上がった気がした。
「そうだぜ、レンのことだからよ、どうせひょっこり帰ってくるって。大量のアイチへの土産付きでな」
アイチへと軽くウィンクをしてふざけたことを言う三和。これも自分を励ましてくれる言葉なんだとアイチはわかった。
言われて、クスリと小さな笑みがこぼれる。
「うん..そうだよね..。ありがとう、櫂くん、三和くん。」

「俺は別に本当のことを言ったまでだ」
「まったまた〜素直じゃねぇの。櫂のやつ。本当は嬉しいくせによ〜」
「....焼き殺されたいのか」
「じょ、冗談だっての。だからそんなマジな目で睨むなよ」
二人もすっかりいつもの調子を取り戻していた。そんな二人を見ていたら自然とアイチも笑えていた。

そんなアイチたちのいる廊下の先から慌ただしくこちらへと駆けてくる音が聞こえてきた。
その音が次第に近づくにつれそれが指導役のマロンであることが確認できた。
マロンはいつもの冷静さからは考えられないほどに焦っていることがわかった。
やがてマロンはアイチたちの姿を確認しその手前で止まった。
「はぁ、はぁ、ひ、姫様.....」
「ど、どうしたのマロン!!?そんなに慌てて....」
「はぁ...はぁ、.....が..........」
「えっ....?」
息も荒いままマロンはほんの少し落ち着いたところで目的の言葉を口にした。

「レン様たちと..共に..行っていた...はぁ.......エイゼルが帰還しました!!!」

「「!?!??」」

その場にいた全員が驚きその眼差しでマロンに見いった。

「そ、それは本当!!?」
「は..い....、ただかなりの傷を負っていて今広間でエレインたちが治療を......」

マロンが言葉を言い終わらぬ内に先に駆け出したのは櫂だった。
マロンが走ってきた道を広間を目指して走りだした。
「櫂くん!!」
「待てよ、櫂!ったく、あいつこういう時めちゃくちゃ速ぇんだよな!!!」
櫂の後を追うため三和、アイチ、そしてそのすぐ後ろでははマロンになにかの指示をだし遅れて駆け出すブラスターブレードがいた。
全員が広間を目指し他にはなにも目をくれずに走っていた。

やがて4人は目的の広間に到着した。
そこにはすでに人だかりができていて、その中心には必死に治癒を行うエレインとその治療を受けている傷だらけのブロンドエイゼルの姿があった。
「エイゼル!!!」
アイチはエイゼルに向かって駆け出した。
集まっていた者たちもその声に反応しアイチたちが通れるようにと身を引いて道を開けた。
アイチはすぐさまエイゼルに駆け寄る。
「エイゼル!!大丈夫!!!?」
「...ひ.....め....さま........」
「酷い怪我..ま、待っててすぐ治療を...エレイン!!私とライドして...!!」
「は、はい!!!」
エレインは一旦治癒の手を止め目を閉じ力をアイチへと集中させた。
アイチは倒れているエイゼルに両手を置く。
「ライド!!!!」
アイチの言霊と同時にアイチの手が淡い緑色の光が輝き始める。
その光を当てられたエイゼルの顔からは少しずつ痛みが消えていった。
「うっ....」
「大丈夫か、エイゼル...」
エイゼルの横でブラスターブレードが膝をつき心配した目でエイゼルを見た。
「申し訳..ありません....我が弱いばかりに...」
「いや、お前は弱くなどない。それは私が保証しているのだから」
「ブラスターブレード様...」

倒れたままのエイゼルから少し離れたところにいた櫂がゆっくりと傍へ寄る。
「怪我しているところを悪いが聞きたいことがある。ブロンドエイゼル。レンはどうした、お前たちに一体何があった」
櫂の言葉に反応し首だけを動かし櫂の方を向くエイゼル。
その顔には苦悩と後悔が浮かんでいた。

「レン様は....まもなくここへ来られます。...しかし、それは帰還のためではなく..このユナイテッドサンクチュアリを...この城を..攻め落とすために...」
「...えっ......」
エイゼルの言葉を聞いたアイチは治癒の手を止めてエイゼルを見る。信じがたいことを聞いたために。
「レンがこの城に攻めてくる!!!?一体どういうことだよ!!!」

「...あの日.....国境に着いた我らは“影”に襲われました。奴らは気配を殺し背後から襲って来たのです、そのため我らは気づくことができずそのまま“影”に飲まれた.....」
「“影”に飲まれた...それで何故お前は無事なんだ..」
「我は常日頃より姫様の加護を受けている身....“影”はすぐに我の体から出ていきました.....ですが....レン様は.......闇の一族シャドウパラディン、元来の本質も相まって.......そのまま.......」
「そんな........」
アイチは信じられないのかエイゼルに置いている手を小刻みに震わしていた。


「“影”に取り込まれたレン様は傀儡と化しその強大な力をもってクレイの大地を侵食し続けています...ここ最近の“影”の侵攻は全てレン様と...そして、ブラスターダーク、レン様によりコールされたシャドウパラディンの者たちの仕業なのです..」
「近頃シャドウパラディンの者たちがいなくなっていたがそれはそのためか....そして、ブラスターダークも......」
ブラスターブレードは拳を強く握りしめた。
「クレイの大地のほとんどを侵食しレン様が次に狙いを定めたのがこのユナイテッドサンクチュアリ....ここさえ落としてしまえば....クレイは完全に闇に落ちたも同然...我はそのことを伝えるためレン様たちの追撃を振り切りここまで来たのです.....」
「レンが....ここに来る......」

「嘘....どうして......どうしてレンが.......」
アイチは今にも泣き出しそうな顔で声を震わす。
エイゼルはそんなアイチを見る。
「姫様.....レン様が狙っているのはこの国だけではありません.......あなたのお命もなのです.....」
「...!!!!」
「アイチが狙われているだと?どういうことだ!!」

「姫様は..この国の...クレイの浄化の要である白の姫巫女...“影”が唯一恐れる存在...その姫様を消し..クレイの全てを闇に帰そうと....」
「レンがアイチを殺すだなんて...そんなこと...!!!」
「三和!!!」
櫂の言葉にハッとし気づいた三和はアイチを見た。
アイチは両の手を固く握りしめ俯いていた。
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