庭球王子

□love with you
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目が覚めた時、なまえの世界は変わっていた。
白いカーテンが揺れる部屋の中で傍らには安心しきった笑みを浮かべる祖父母の姿
掌には四葉のクローバーを模ったペンダントを握りしめていた
どう言った経緯で手に入れたものなのかよく思い出せないけれど
それはなまえにとってとても大切な物であることだけは覚えていた。
―――
「3年になって転入なんて大変だね」

同じクラスの学級委員の女子生徒が苦笑交じりに言う
それに対しなまえは微笑んだ

「確かに、新しい友達を作るのも、授業に追いつくのも大変だけれど、新しい出会いがあるから」
「そっか、そう言う考え方もあるのかぁ。私は引っ越しとか転校とかした事無いから全然分かんないけど、何かあったら相談してね」
「うん。ありがとう」

言葉を交わしながら廊下を歩く
放課後の時間を使い校内を案内してもらっている途中だった

交友棟の窓から見えるテニスコート
丁度、部活の時間だったためそこには人だかりが出来ていた
女子生徒の黄色い悲鳴が響いている

「すごいね」

二階の窓から見えるテニスコートは大勢の女子生徒が取り囲んでいた

「ああ。丁度、跡部様の試合だから」
「アトベサマ?」
「跡部景吾、生徒会長でテニス部部長、成績優秀、スポーツ万能、ついでに跡部財閥の御曹司」
「あとべ、けいご……」

初めて聞く名前なのに、なまえの胸はその響きに一瞬とくんと鳴りきゅう、と締め付けられる感覚がした

「ほら、あの人」

指差した先にはアッシュグレーの髪にアイスブルーの瞳をした少年がいた
俊敏な動きで相手コートにボールを次々に打ち返していく
ポイントが入る度に女子生徒たちが歓声を上げ、彼を讃えている

「ゲームセット。ウォンバイ跡部」

審判役の部員がそう声を上げればその歓声は一際大きいものになった
ジャージを羽織った跡部が一瞬こちらを見た

アイスブルーの瞳と目が合った

その瞬間、なまえは呼吸を忘れた
引き込まれそうなほど綺麗な冷たい青い色をした瞳
昔どこかで見た色だった。
……
「ゲームセット。ウォンバイ跡部」

審判のコールを聞いた跡部は樺地に持たせていたジャージを受け取るとコートを出てベンチへと腰を掛けた
試合終了直後、交友棟の二階に現れた人影に一瞬目を奪われた
一人は忍足のクラスのクラス委員、もう一人は見覚えのない女子生徒
食い入るようにこちらを見つめていた。

「おい忍足」
「おん」
「お前のクラスに転入生が来ただろ」
「ああ、みょうじなまえっちゅうエライ別嬪さんやわ」

本気なのだか冗談なのだかよく分からない口調で忍足が笑う

「跡部の事やから、知っとるんやないの」
「転入生の話は知っていたが、色々と忙しくてまだ書類に目を通せてねえんだ」
「へぇ。珍しいこともあるもんやな」
「そう言えばさっき、みょうじなまえと言ったな」
「おん。なんや知り合いか?」

みょうじなまえ、確かに昔どこかで聞いた名前のような気がするが……と跡部は独り言のように漏らす


「いや。何でもねえ」
「ふぅん。ま、ええけど。あのお嬢さんも色々転校繰り返してるみたいでな、なんや親近感湧くわ」

しみじみと話す忍足に跡部が鼻を鳴らす

「何で笑うん」
「さて、もう一試合するか」
「え、無視なん?無視なん?」

汗も引いたところで跡部は立ち上がって再びコートへと向かった


練習を終えシャワーを浴びた跡部は、生徒会室の自分専用ソファーへと腰掛け
封筒に入ったなまえの書類を取った

「みょうじなまえ……」

出身地、出身学校、今まで転校した学校の数々、家族構成が書かれたそれに目を通すがやはり覚えはない。
しかし書類に貼られた写真に写る彼女の顔は確かにどこかで見た事があった

切り揃えられた前髪にまだ幼さを残す口元
真っ直ぐにこちらを見つめる瞳と目が合うと、何故か懐かしさを感じる
得体の知れないそれに跡部は内心舌打ちをする

引出しの奥にしまい込んだ宝物を取り出せずにいるようなそんな感覚
馬鹿馬鹿しいと笑みを浮かべ、なまえの書類を封筒に戻す

「帰るぞ樺地」
「ウス」

後ろに控える樺地にそう声を掛けた跡部は封筒を鞄に仕舞い立ち上がる
その背中を樺地がゆっくりと追った

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