+シキガミショウセツ+ お題編

□金魚
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それはもう必死で頼み込んだのだ。
その姿に根負けして、医師は、その日だけ特別───もちろん少しでも体調が悪くなる前兆があった場合は、すぐに戻るように、との事だったが───という事で夜に外出許可をだしてくれたのだった。
かくして、光太郎と月子の二人は祭りへと向かった。

「疲れたら言えよ」

ぶっきらぼうに言う光太郎がおもしろくて、月子は笑いを堪えたまま返事をかえす。

「うん、わかってるって」

夏祭りという事で、月子は巾着を手に浴衣を着てきていた。
看護士さんが気をつかって、月子に、と持ってきてくれたのだった。
白の生地に、夕焼け色の蝶々が舞っている。
帯も浴衣と同じ白で、こちらには控えめなピンク色のバラが散らされている。

「こうして夏祭りにくるのって、何年ぶりだろうね、コウ」

月子の履いた草履と地面があたり、カランカランと独特な音が響く。

「そうだなぁ、もう思い出せねぇくらい昔だよな。 確かもうすぐ行くと、夜店が並んでるはず」


ひとつ道を越えると、そこは真昼の様な明るさが、夜の闇を浸食していた。
行き交う人々も多く、活気が溢れている。
「わぁ」と感嘆の声をあげ、月子は懐かしさに、キョロキョロと祭りの風景を見回した。
烏賊焼きやベビーカステラ、焼き鳥、フランクフルト、林檎飴、金魚すくい、くじびきや輪投げや射的などの定番屋台が広い道路の左右に、ずらりと軒を連ねていた。
中にはチヂミやトルコ料理などといった屋台まである。
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