弱虫ペダル

□秘密特訓
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『はぁ……まさか新開君と福富君にも聞かれてたなんて』
山坂は重たいため息を一つついて片手で頭を押さえた

あの後教室に戻ると福富と新開が頭を下げて謝ってきた
「すまん、聞く気は無かったんだ」
「おめさんのことが心配でついていってたんだ。ゴメン」
『っ!〜〜!』
山坂は声にならない叫び声をあげて口をパクパクさせた
「聞いちまったもんは忘れることは出来ないが俺達誰にも言わねぇからさ」
「それと、荒北は口は悪いが根は優しいやつだ。安心しろ」
『人を脅す奴のどこが優しいのよ!』
やっとの思いで言葉に出来たのはこれだけだった

『いったい何する気よ。あの三拍眼』
あぁ、山に登りたいと思いつつも荒北との無理矢理させられた約束のため自転車を引きながら自転車部の部室へ向かった
「遅ェヨ!!」
『ちゃんと時間通りでしょ!!!』
目的地につくと荒北が部室の前で自転車に股がっていた
もう、誰もいないのか部室は真っ暗だった
『で、こんな時間にいったい何する気なの?』
「オマエ坂以外も誰かと並んで走るの無理なのォ?」
『はぁ?』
突拍子もない荒北の発言に山坂は疑問符を浮かべる
「聞いてンだから答えろよ」
『え、まぁ…坂道程では無いけど』
「じゃあ、そっからだな…おい、自転車乗れ。行くぞ」
『はぁ!?えっ!?ちょっとほんとに何する気よ!』
「何って、自転車に乗るンだろ」
『だから!私誰かが「だから!それ克服するために今から練習すんダロ!」…えっ?』
言葉を遮り言った荒北の言葉に思わず抜けた声が漏れる
「まずは、平面で並んで走るようにすんぞ。俺の後ろついてこい」
『………うん』


「なぁぁぁ、山坂チャァァァン。やる気あんのォォォォォ」
『あっ、あるわよ!……あるけど』
山坂は震える足でペダルを踏むも直ぐにブレーキをかけて距離を空けてしまう
「……チッ」
荒北は道の端によると振り向いた
「とりあえず距離を詰めろ。そんなんじゃ東堂との勝負は夢物語になンぞ」
『!!』
「ここに坂なんてねぇし崖もねぇ!来い!山坂チャン!!」
『っ……!』
手の震えを押さえるようにぎゅっとハンドルを握る
1つ2つとペダルに力を加えれば目の前にいる荒北が近付いてくる
それにつれて体が強張ってきてペダルが重くなる
「下向くな!前向け!」
そして
『うっ…くっ……!』
山坂は荒北の後ろに着いた
『いっ、まは…これ以上は…怖い』
「………」
山坂は震える声で伝えた
荒北は山坂をじっと見て
「……その距離保って部室まで戻るぞ」
『え?』
それだけ言うと前を向いてしまった
『(呆れられちゃった……でも、これ以上は…本当に)』
山坂の目には段々と涙が溜まってきた
それを隠すように思わず俯いた

「はい、山坂チャン」
部室に着くと荒北はタオルとジャージを投げてきた
「風邪引くと悪いから汗拭いたらそれにても着替えて帰りな。俺はもう少し走ってから帰っから」
『あ…ありがと…』
山坂はぎゅっと胸に抱えて俯く
「着替え持ってこいよ明日から貸さねぇから」
『え?明日?』
「これから毎日すっから、わかったな」
『付き合って……くれるの……』
「聞いちまったもんはしゃーねぇからな、最後まで付き合ってやるヨ。目標は卒業までに万全で東堂と勝負だ……まぁ、最初にしては頑張ったんじゃねェの?」
荒北はそう言って山坂の頭をぐしゃりと撫でた
『!あっ、ありがと……えっと、名前、なんだっけ』
「荒北だヨ!覚えとけヨ」
『えへへ…荒北…ありがと』
山坂はうっすら目に涙を浮かべて微笑んだ
「っ……さっさと着替えて帰れ!」
『イタッ!』
荒北はぱちんと山坂のおでこにでこぴんをかまして出ていってしまった
『っ〜〜……でも、ほんとに意外とイイヤツだな』
じんじん痛むおでこを押さえてぼそりと呟いた

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