【拝啓、悪魔なヒーロー様へ。】
□二枚目
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っは、っは、っは、っは!
真っ白な視界。
っは、っは、っは、っは!
荒い呼吸。
っは、っは、っは、っは!
耳を塞いでいるかのように、音が耳の中でこもって、自分の呼吸音が耳の中で反響しているのが分かる。
僕は、どうして…?
真っ白な視界の先に光が見えた。
そうか、僕は彼処に向かって走っているのか。
でも、どうして?
僕は走り続ける。
「──────セナっ!!」
「はっ、はっ──────!」
突然、肩を揺さぶられながら大きな声で呼ばれた事で、不明瞭だった意識が一気に覚醒する。
耳に詰まっていた栓が外れて、音が溢れ出す。
五感が、ざわざわとさざめく。
風の音、鳥の声、電車の音、川のせせらぎ、空気の温度、日差しの強さ、肌の焼ける臭い。
体温が高い。
汗も出てる。
あれ…今って真冬、だったよね?
「セナ…せっかく俺が鍛えてやった足の速さ、パシりに生かしてどうする…」
「はぁ、はぁ、………え?」
半袖から剥き出しになっている腕が、ランドセルのクッション部分と密着していて汗ばんで気持ち悪い。
…ランドセル?
僕は自分のランドセルを背中に背負い、その他にも五つ位のランドセルを持っていた。
「あれ、陸?」
陸がいる。僕の目の前に。
「っセェェエナァァア!俺の話聞いてた!?なぁ!」
「いっだだだだ!痛っ!痛いよ陸!ギブギブ!!」
僕が持っていた沢山のランドセルを一気に叩き落とし、そのままの勢いで関節技をキメてくる陸の腕を、パシパシ叩いて止めさせる。
そこで気付く。
───そうだ、ぼく、パシりの途中だったんだ。
「…違う」
「何が違うんだよ、パシりに使ってたんだろその足!」
「あっ、そうじゃなくてっっ、パシりに使ってた事は使ってたんだけどっそのっ」
「言い訳無用だ!あほセナ!」
「わぁぁぁあ!ごめんってば陸!!」
あああ、もう、何がなんだか分かんないよ!何で僕の体が小学四年生の時まで縮んじゃってるの!?アポトキシンとか飲んだ覚えないんだけど…!
もしかして僕がヒル魔さんに恋して、敗れて、事故にあって死んじゃったのって嘘だったの??夢か何か!?
…そんな訳ない。
そんなの、絶対に嫌だっ…!
僕が積み上げてきたもの全てが嘘だったなんて、そんなの、あんまりだ。
でも、じゃあ、僕はどうして此処に?
もしかしてこれは本当に夢で、実は僕はまだ死んでない…とか?
思考はぐるぐる回って混乱するばかりで、頭の悪い僕にはまともな答えは見つかりそうになかった───。