本番はこれから

□第一話
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「やーい!お前男のくせにスカート穿いてんじゃねーよ。」
「似合わねーよ!」
「ブスのくせに」
小学5年の男子が色々言ってくる。
あたし、北条桔梗は3人の同級生の男子に囲まれていた。
「ぐすっ。男じゃないもん」
「お前男みたいにでけーじゃねーか!」
「そうだ!お前ゴリラにそっくりだな」
「ゴリラがスカートなんか穿いてんじゃねーよ」そういって男子の一人があたしのスカートを下までひっぱり下ろされた。
あたしは羞恥で顔を真っ赤にし、泣きながらスカートを穿き直し走って帰った。

くやしいっ!くやしい、くやしいいいい!!!
負けたくない!あんな奴らなんかに負けたくない!
「・・・いっ、えいっ、えいっ」
家まで残り半分の所で大きな声が聞こえてきた。
どうやらこの一軒家の生垣の向こう側から聞こえるみたい。
覗いちゃダメかな・・・バレないようにしよう。
あたしは生垣の中からコッソリ中を窺った。
そこには、広い庭があり、その庭に白い服を着ている男の子8人と女の子2人が足を肩幅に開き拳を前に突き出していた。
突き出す度に“えいっ”と掛け声を言っている。
これは空手というものだろう。
桔梗はお兄ちゃんがテレビで見ていた空手を思い出した。
目の前で見るのが初めてだったため、凄いと感じていた。
「・・・見学の子かな」
バッと声がしている方を見、自分が覗きという悪いことをしていると思い出した。
「っあ!ごめんなさい・・・」
立ち去ろうとしたとき、声をかけてきた優しそうなおじさんがにっこりと話しかけてきた。
「見学なら中に入ってみたらどうだい?歓迎するよ」
おじさんはおいでと桔梗に言い、中に案内した。
すると、おじさんに気付いたさっきの子たちが、
「先生こんにちは!今日もよろしくお願いします」
と深々と頭を下げ挨拶をした。
「はい。今日も頑張りますよ。所で、今日は見学の子がいるからみんな仲良くね」
とほほ笑みながらあたしのことを紹介した。
みんな口々に笑顔でよろしくと言いに来てくれた。
それが凄く嬉しくてあたしも笑顔でよろしくお願いしますと、挨拶した。
それから、1時間くらい先生と呼ばれている人の横に座りみんなの稽古をじっと見つめた。
「みんなすごいでしょ?」
「・・・え?」
あたしは先生を見た。
「ここにいるみんなは、喧嘩に強くなるために稽古してるんじゃないよ。己に強くなるためだ。」
・・・己に強く・・・。
あたしは先生の言葉を考えた。
そして、あたしはいじめ返すのではなく、虐められても泣いたり屈したりしない強さがほしいと思った。
「・・・えっと、名前聞いてなかったね」
「あ、北条 桔梗です。」
先生はにっこりと微笑み「またおいで」って言ってくれた。

その日家に帰るなり、お父さんとお母さんに空手を始めたいと伝え、今週の金曜からさっきの道場に通うこととなった。
道場に行くと、空手道着を買い、改めてみんなに挨拶をした。
「白川小学校5年の北条桔梗です。今日からよろしくお願いします」
すると、ザワっと騒がしくなった。先生をみると、先生も何故か驚いた顔をしていた。
「??どうしたんですか??」
訳が分からず先生に聞いてみると苦笑いされながら
「・・・小5?」
と聞かれ
「・・・はい」
と答えた。
「そっか、身長高いね!先生てっきり桔梗ちゃんは中学3年生くらいかなって思ってたけど。」
あたしは、身長が161cmある。小5でだよ?!このせいで虐められてきたんだもん、ここでも虐められるかもと思い俯いた。

「お前、俺達と同級生かよ!すげー身長高いな!羨ましいぜ!これからもよろしくな!」と、気さくに声を掛けてきてくれた男の子がいた。
羨ましいの言葉で俯いていた顔をパッとあげ、その男の子をみた。
頭が坊主でパッチリ二重の笑顔がかっこいい男の子だった。男子の横と後ろには、男子2人と女子が2人立ってこちらを笑顔で見ていた。
初めての友達で、本当にうれしかった。
それから、みんなと仲良くなり、最初に羨ましいと言ってくれた男子の名前は、坂本達也で、その友達が山本翔太、槌田健太郎、隈部彩香、矢部美紀。
みんなあたしと同級生ですぐに打ち解けることができた。

それから、週に2回一度も休むこともなく通い続け運動神経もよかったのか、半年で茶色帯まで進級した。
みんな、そして先生まであたしがこんなに早く進級するとは思ってなかったみたい。
「・・・お前すげーな。半年でここまでって」坂本達也ことたっちゃんが茶色の帯を締めてる時に顔を出していった。
「そう?でも、たっちゃんももうすぐ紫帯ってすごいじゃん」
道場によって違うがこの道場は
白帯
黄色帯
緑帯
茶色帯
紫帯
黒帯
の階級となっている。その帯になるには、市または県により試合がありそれで階級を上げていく。
あたしも最初は白帯からだったけど、上達の速さに飛び級で試合をし、見事勝利を収めたから今では彩ちゃんよりも、美紀ちゃんよりも階級が上になっている。
あたしが、そうやって階級をあげても、みんなは変わらず友達として接してくれるからあたしの居場所は学校よりも、ここになっていた。

ある日、道場が休みの水曜日の下校途中、以前虐めてきた男子3人がいた。
ドキッとした。
ここのところ全くと言っていいほど、関わってこなかったのに・・・。
あたしは、無視することにして男子の横を通り過ぎようとした。
「おい。おとこ女!無視すんなよ。お前、最近空手かなんか始めたみたいだけど、調子のってんじゃない?」
男子のセリフに横に立っていた男子2人がクスクス笑っていた。
「・・・別に調子乗ってないけど?」
あたしが言い返したせいか、男子の笑いが止まった。
「・・・お前俺たちにそんな口いつから聞けるようになったんだよ。また虐められてーのか?」昔を思い出し反射でビクっとなってしまった。
しかし、あたしの肩が竦んだことには気づかれなかったみたいだ。
「・・・もうガキみたいなことやめたら?あたしもう前みたいな泣き虫じゃないから。脅したって無駄よ」
身長はあたしのほうが高いから上から見下すように鼻で笑った。
「〜〜っんだとお前ええ!!」
男子3人が一度に襲い掛かってきた。
あたしはこの半年間の成果を発揮し反撃もせず、倒してしまった。
まぁ、倒したって言っても、3人とも自分から突っ込んできて避けたらそのまま家の塀にぶつかったり、躓いて転んだり、転んだ奴に引っかかって顔面ダイブしたりと、何もしなくてもよかった。
「ふふ、本番はこれからだよ?起きて。」あたしが、しゃがみ込み男子一人を立たせようとしたら、叫んで逃げていった。
ほかの二人もそれに気づいてすぐに逃げて行ったのはいうまでもないよね。

あたしはこうして、苦手克服したのだ。
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