book

□「痛」
1ページ/1ページ


「ねぇ 曽良くん」

私はなんとなく弟子の名前を呼んでみた。

私の声に反応し、曽良君の美しい顔が私に向けられる。

「なんですか?」

不機嫌そうな曽良君の表情。

「うぅん 何でもないよ」

「……用がないなら呼ぶなっ!」

「アサリッ!!」

予定通り、曽良君の断罪チョップが私の腹に叩き込まれた。

私はすかさずいつもの様に変な叫び声を上げる。

苦しそうな表情を作る。



…でもその反応は嘘。

本当は曽良君の断罪チョップ、芭蕉大好きなの。

変な叫び声を上げて自分を紛らわさないと、嬉しくてニヤケちゃうくらい。

曽良君の断罪チョップは、今此に居る私にだけに向けられたもの。

痛みにより、私という存在を認めてくれているって実感できるのっ!

曽良君が私に痛みを与えてくれてる。

何て素敵なことなんだろう…!


…でも曽良君は、私が嘆いたほうが嬉しいよね?

苦しい顔をしたほうが愉しいよね?

だから私は自分の快感を得るためと、曽良君に愉しんで貰うために頑張って演技をするの。

………。


もしも曽良君が芭蕉を捨てちゃったらどうしようかな…

何考えてるんだ私。

私の曽良君がそんなことするわけないよっ!!

曽良君を信じゃなきゃ!

一瞬でも馬鹿なこと考えてごめんなさい。


これからもよろしくね。

曽良君




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ