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□お弁当
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「……妹子さんがお弁当残すなんて珍しいですね…」

曽良の何気ない一言に、妹子がギクリと肩を跳させ、お弁当箱を両手で隠した。

そんな過剰過ぎる妹子の反応を見た太子と閻魔が、ニヤリと粘着質な笑みを浮かべる。

「いーーもこっ!何を残したんだ?私にも見っせろーーっ!!」

「さっさとその手を退けなよー?妹ちゃん 俺その中身が気になって眠れないーーっ!!」

「あっ馬鹿ッ!引っ張るなこのイカカレーッ!!」

弁当箱を奪おうとする太子と閻魔に、妹子はすかさず、ダブルエルボードロップを喰らわせる。

刹那、弁当箱から妹子の手が離れた。

その瞬間を鬼男は見逃さない。

「もーらいっ!」

鬼男が妹子から弁当箱を取り上げた。

「あぁっ!!」

「でかした鬼男ッ!」

「さっすが俺の後輩〜」

様々な声を上げる三人を横目に、鬼男は妹子の弁当箱を覗き込んだ。


「……………。」


弁当箱を手にしたまま固まる鬼男。


「鬼男くん中身どう「……うぁああぁあぁああぁぁああぁっ!」

固まったかと思えば、鬼男は何かの化け物にでも疲れたかのように絶叫し、弁当箱を投げ出した。

そして、教室の隅に逃げ込み、ガタガタと震え始める。

「お 鬼男先輩ーーッ?!」

そんな鬼男に唖然とする妹子。

「………うわ…あ…………ぁ…

…………………。」

鬼男は


力尽きた。


「「死んだーーッ?!」」

二人仲良くハモる太子と妹子。

が、妹子はゴホンと一つ咳ばらいをすると、弁当位で人が死ぬわけないでしょう、馬鹿なんですか?、とだけ太子に言い残し、鬼男の元へと走っていった。


「………一体なんでこんな事が…」

妹子の一言に少し落ち込みながらも、太子が神妙に呟く。

そんな太子の呟きに、閻魔が答えた。

「太子、鬼男くんが気絶するのは当たり前だよ。」

「えっ?!」

目を見開く太子。

そんな太子の前に、閻魔はズイッとキャッチした妹子の弁当箱を突き出す。

「妹ちゃんの弁当を見れば一目瞭然。」

「…………あ…」

太子も納得する。

妹子の弁当の中には…

なんだろう、赤色の毒々しい模様のキノコに、何肉かわからない肉が巻き付いている。

そして、その周りに密集する『大豆』

「なるほど、鬼男はこいつに反応して…」

「そう… 可哀相な鬼男くん。」

去年の2月3日を思い出し、太子と閻魔は思わずブルッと身震いした。

「………え? 鬼男先輩に去年に何か「まぁまぁ妹ちゃんっ!!」

妹子の問いを閻魔が無理矢理切る。

「その話題は、……まぁまた今度にするとして 何その毒物みたいな料「毒物とかいうなぁあぁぁッ!!」

妹子が恥ずかしそうに顔を赤らめその場にしゃがみ込んだ。

「………えッ?! 何、もしかして妹子急激に料理が下手になる病気に侵され「よっちゃんだよッ!!」

妹子が太子の声を掻き消す様に叫ぶ。


ここで説明しておこう。

よっちゃんとは、只今小野家に下宿中である、平田平男の彼女である。


「よっちゃんが… 昨日僕の家にいきなり遊びにきて、僕の弁当の食品を一品だけ作って帰っていったんだッ! 平田先輩の手前家で棄てる事なんて出来ないし……」

太子がアハハと乾いた笑みを浮かべた。

太子も以前、よっちゃんにお世話になった事があるのだ。


……そんな二人の様子を見て、閻魔がニヤリと口を歪ませる。

「……尊敬する平田先輩の彼女さんの手料理だったらぁ、妹ちゃん残す訳いかないよねー」

「そ、それは…」

閻魔の嫌味の問いに、妹子は言い返せず目を泳がした。

そんな妹子を見て、閻魔がより笑みを濃くする。

「俺達が助けてやってもいいよ?」

『俺達』という言葉に太子と曽良がピクリと反応する。

しかし、そんな二人の様子など気付くはずもない妹子は、閻魔をまるで神様でもを見るような目で見上げていた。



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