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□家族
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今日は小春日和。
さぁて、のんびりお昼寝でもしようかな、と考えていた芭蕉の目に、今日の雰囲気にまるで似合わない穏やかでないものが映る。
「ちょちょちょちょっとぉ! マーフィーくんに何やってるの?!」
芭蕉は、左手にマーフィーくん、右手にハサミを持ち、目を輝かせた曽良を見て悲鳴に近い声をあげた。
「あぁ バショさん。見ててください。今から切り刻みますんで」
「切り刻まんといてっ!! そしてハサミ危ない!」
芭蕉が曽良からマーフィーとハサミを取り上げる。
「あー」
「あー じゃないでしょ! もぅ…」
大丈夫…?マーフィーくんと、曽良から取り上げたマーフィーくんの頭を撫で始める芭蕉を見て、曽良が不機嫌そうにプゥと頬を膨らました。
「バショさん」
「……なぁに? 曽良くん」
曽良の呼び掛けに、芭蕉は目に涙を溜めながら答える。
「マーフィーと、僕、どっちの方が好きなんですか?」
「どっちって…」
曽良が戸惑う芭蕉の着物の袖を引っ張りながら、どっち どっち と繰り返し始めた。
曽良に振りたくられながら、芭蕉が答える。
「うーん…芭蕉は、曽良くんとマーフィーくん。どっちも大好きだよ?」
「どっちもじゃ駄目です」
「う"ーーー 好きの種類が違うからなぁ…」
芭蕉の言葉を聞き、曽良は 種類? と呟きながら小首を傾げた。
そんな曽良が可愛いくって、芭蕉は小柄な曽良を抱き上げ、自分の膝に座らした。
「芭蕉がお父さん。マーフィーくんがお母さん。曽良くんが二人の子供っていう好きな形かな「嫌です。」
曽良がキッパリと言い切る。
「松尾バションボリ…」
全否定され、カクッと頭を垂れる芭蕉。
そんな芭蕉の頭を、芭蕉の膝の上から曽良が慰めるように撫で始める。
「……バショさんがお母さん。僕がお父さんで、マーフィーがその子供っていう形だったら、納得してあげないわけでもないです」
「え?」
「僕はバショさんが大好きです。将来、僕はバショさんのお婿さんになるんです」
頬と鼻を真っ赤に染めながら、自信満々に言い切る曽良。
「あはははは! 曽良くんがお婿さんだったら芭蕉、頼もしいなぁ!」
そんな曽良に頭を任せながら、芭蕉は柔らかな笑みを曽良に向ける。
「僕をお婿さんにしてくれますか?」
「曽良くんが、大きくなって芭蕉にもう一回告白してくれたらね!」
花が咲いたかのように、ぱぁっと曽良が無邪気に笑った。
芭蕉はそんな曽良を、ギュッと抱きしめる。
二人の間に挟まったマーフィーくんが、ニコッと笑った気がした。